ある2人の会話から。
「死にたくない 時々思う 生まれてこなければよかったと」(ボヘミアンラプソディーの歌詞)
「どうしてそんな悲しいことを言うんだい?」
「君には分からないよ」
「ねえ、知ってる?ネットワーク科学だと、知り合いの知り合いをたどっていくと6人目で世界中の誰とでもつながるんだよ」
「僕には関係ないね。理論つながりで理解つながりではないから」
「ふうん。じゃあこの話はどう? 僕らは物質でもつながってるんだ。分かりやすいのは空気と水。難しい話だと動的平衡。僕らの身体の成分は分子レベルで毎日置換わってるんだって。いろんな分子をみんなで共有しているんだ。物質的にも世界中の誰とでもつながってるんだよ」
「それも興味ないね。心がつながらないから。君には打ち明けるけど、僕はゲイでHIV陽性者なんだ」
「そうなんだ。でもゲイだろうがHIVだろうが、同じ時代を生きている仲間に変わりないよ。HIVなんか今ではまず死なないし、きちんと治療していれば他人に感染させることもない。ワクチンはまだないけど、感染予防薬はあるよ。おかげで新規HIV陽性者が激減している国もあるんだ」
「それは分かってる。でも僕の心はもうボロボロなんだ。どうして君はそんなにおせっかいなんだい?」
「宇宙で最初に生まれた水素原子はもう138億歳だけど、それを僕らは共有してるんだよね。そう考えると時間的に138億年も僕らはつながってることになる。とても素敵だと思わないかい? なんだか奇跡のように縁あって同じ時代を生きている仲間に生きづらさがあるのなら、それを少しでも取り除いてあげたいんだ」
「ふうん、なんか面白い考え方するね」
「君は自分がHIV陽性だって分かってるけど、まだ分かっていない人がいっぱいいるみたい。まずはHIV検査を受けてみるよう、君の周りの人に呼びかけてくれないかい?」
「わかったよ。君がそう言うならやってみる」
「まっちょいびんどぉ~」
「なんだそれ?」
「やっと笑ったね。沖縄の方言で『待ってるよ』という意味さ」
沖縄県内の保健所ではHIVを含めた性感染症検査を無料・匿名で行っています。最寄りの保健所にお問い合わせください。
(仲宗根正、那覇市保健所所長・医師)