<書評>『世界のなかの日米地位協定』 基地問題 日本全体の問題


社会
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『世界のなかの日米地位協定』前泊博盛・猿田佐世監修、新外交イニシアティブ編 田畑書店・1980円

 本書は、日米関係や沖縄の基地問題について活発に提言を行っているシンクタンクによる日米地位協定の概説書である。

 日米地位協定については、すでに研究者やジャーナリストによる多くの著作があるほか、沖縄県も他国の地位協定との比較調査を行って公表している。しかし、これらの既存の著作・研究の中でも本書はそのわかりやすさに特徴があり、入門書として最適である。本書では、米軍基地の排他的管理権、航空機・ヘリ事故時の対応、航空機訓練による危険・爆音、刑事裁判権および身柄拘束、損害賠償、環境問題、米軍駐留費負担を取り上げ、それぞれ条文と事例、他国との比較を丁寧に説明している。また沖縄だけでなく横田基地についての説明もあり、基地問題が日本全体の問題であることを強調している。米軍事故の被害者へのインタビューも、日米地位協定や米軍基地の問題を具体的に示している点で貴重である。

 本書の最後には、監修者の前泊博盛氏と猿田佐世氏による対談が掲載されており、日米地位協定を越えて日本の外交のあり方そのものを問うている。「根源的な問題」は、「この時代に日米安保がまず必要かどうか、そして本当に日本の安全のために機能しているのかどうか」であり、「この問いかけがない限り地位協定の問題というのは実は些末(さまつ)なもの」(前泊氏)だからである。前泊氏は、日米地位協定は「郷に入っては郷に従え」という「領域主権論」ではなく、「軍の論理」である「旗国法原理」にもとづいていると喝破し、地位協定改定によって「この国の主権を取り戻す」ことを提唱している。かつて「戦後レジームからの脱却」を唱えた首相がいたが、日本の主権を制約する日米地位協定こそが「戦後レジーム」にほかならないのだ。

 あえて注文を付けると、日米地位協定についての文献やホームページの紹介があればさらに入門書としての価値が上がっただろう。本書を踏まえて、日米地位協定や日米安保の歴史や論点についてさらにさまざまな文献を読んでいくことをおすすめしたい。

 (野添文彬・沖縄国際大准教授)


 まえどまり・ひろもり 1960年生まれ、沖縄国際大大学院教授。著書に「本当は憲法より大切な『日米地位協定入門』」「もっと知りたい本当の沖縄」など。

 さるた・さよ 1977年生まれ、新外交イニシアティブ代表、弁護士。著書に「米中の狭間を生き抜く」「自発的対米従属」など。