【深掘り】沖縄県の地域外交開始 平和枠組みを沖縄から 要人招待や発信に改善余地


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済州フォーラムに出席し、手を握り合う(左から)照屋義実副知事、韓国の呉怜勲済州特別自治道知事、中国の巴特爾海南省常務委員兼秘書長=2日、韓国の済州特別自治道

 照屋義実副知事は4日、県が「地域外交のキックオフ」(玉城デニー知事)と位置付けた一連の韓国訪問日程を終え、帰国した。同じ島しょ地域で、多くの住民が犠牲になった出来事を経験するなど歴史に類似性がある済州が呼び掛ける「グローバル平和都市連帯」の加入に合意し、県は、済州や欧州の既存加入都市と連携して平和の構築に向けた地域外交を推進する枠組みを作った。ただ、外国要人を受け入れる場合、沖縄側の態勢面での課題も浮き彫りになり、地域外交を推進できる、県庁部局を横断したノウハウ蓄積も求められる。

 ■危機感共有

 「国際情勢が危ない状況でみんなが不安を感じているが、済州と沖縄が中心となり、平和の雰囲気をアジアに広げたい」

 2日、照屋副知事と会談した済州特別自治道の呉怜勲(オヨンフン)知事はこう語り、米中対立や台湾有事を念頭に、地域間が連携する意義を共有した。

 日韓関係は2022年の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領就任以降、緊張緩和が進む。だが、文在寅(ムンジェイン)前政権下では元徴用工問題などを巡り冷却化した過去があるなど、浮き沈みを繰り返してきた。

 済州フォーラムのパネル討論でも、米中対立激化の影響で「気候変動やエネルギー、食糧危機といったグローバルな問題が(国家間の外交で)扱われていない」と、国家外交の問題点が指摘され、地方外交に期待する声が上がった。

 県関係者は「国同士ではメンツの問題から対話ができない時でも、地方ならできることがある」と語り、国と地方の「役割分担ができるのではないか」と、県が地域間の外交に取り組む狙いを語った。

 ■課題

 今回の訪韓は当初予定していた玉城知事が台風対応で行くことを断念。代わりに照屋副知事が対応することになった。

 玉城知事は7月に訪中、9月以降には訪台する計画。取り沙汰される「台湾有事」の当事者である両地域を回る。

 照屋、池田竹州両副知事も、世界のウチナーンチュ大会開催協力のお礼などを目的に、北米、南米、アジア地域を分担して回る予定だ。県は今回の訪韓を皮切りに地域外交を加速させる構えだ。

 一方、外交対応で沖縄側の対応に課題が浮き彫りになる場面もあった。

 3日に行われた高喜範(コヒボム)済州4・3平和財団理事長との面談で照屋副知事は、糸満市で6月23日に開かれる全戦没者追悼式への出席を希望した高氏に対し、来沖した際には席を確保する考えを伝えた。だが、招待することについては「他のさまざまな団体との事例」「今後の課題としたい」などと語り、現状は困難との見方を示し、県側の受け入れ態勢の課題を率直に語った。

 済州側は2001年から始めた「済州平和フォーラム」を皮切りに、各国の大使や大統領経験者らが出席する国際会議を計18回開催するなど、知見を積み重ねる。

 沖縄は「慰霊の日」の式典に首相が出席するなど国内では平和発信の拠点として認知される。一方、国際的な情報発信には改善の余地がある。

 県関係者の一人は「国際的なシンポジウムの運営、人的ネットワークの築き方など学ぶことは多い」と話した。
 (知念征尚)