肉用の沖縄県有種雄牛(しゅゆうぎゅう)の能力が向上している。このほど選抜された「百合安清(ゆりやすきよ)」が産肉能力を調べる「現場後代検定」で歴代トップの結果を収めた。現在検定中の「美百合(ちゅらゆり)」も好成績が期待される。長年課題として指摘されてきた母牛の改良も進む。県外の種雄牛の精液を取り寄せる県内の繁殖農家は多いが、県有の活用が広がり、子牛の流通が増えることで市場の活性化やブランド向上につなげられるか注目される。
繁殖農家は種雄牛の精液を使い、肥育農家に出荷する子牛を生産する。県有種雄牛は県が検定で優れた産肉能力があるとして選抜した種牛。
産肉能力は、県が繁殖農家の協力を得て生ませた子の枝肉から判別する。百合安清は枝肉重量やロース芯面積、脂肪交雑といった項目で県内歴代トップだったほか、近年注目される脂肪の質の値も高かった。
今月8日には南城市の県食肉センターで本年度の検定があり、3頭のうち美百合が途中段階ながら各項目で高い数値をたたき出した。既に販売している精液の売れ行きも好調で、17日の南部家畜市場(糸満市)であった競りでは、美百合を父に持つ子牛が42頭出され、種雄牛別でトップタイだった。
百合安清、美百合ともに鳥取県の名だたる種雄牛「百合白清2」を父に持つ。県畜産研究センターや県家畜改良協会は「どっちをつけても間違いなし!」と書かれたチラシを作成するなど、精液のPRに力を入れる。
近年の能力向上は、母牛の改良が進んできたことも影響している。体形などから繁殖雌牛としての能力を評価する登録審査で沖縄は全国平均を大きく下回ってきたが、2021年度は審査得点が81点を初めて超え、その差は縮まっている。
県畜産課の本田祥嵩主任は「種雄牛も母牛もこの10年で間違いなく良くなった」と話す。優秀な種雄牛から雌の子牛が生まれた場合は、能力の高い母牛としての活用も期待できる。
検定を経た県有種雄牛の精液価格は主に2千円だが、県外の代表的な種雄牛は万単位の高値で売買されており、価格に開きがある。それでも、県内で育った子牛は9割が県外へ出荷される背景もあって、県外の種雄牛の精液を買い求める繁殖農家は多い。
うるま市の繁殖農家の久高順一さんは、以前は県の種雄牛で種付けしていたが、競りで満足いく値がつかなかった経験がある。「良い肉がとれるかもしれないが市場にはまだそれが反映されていない。まずは子牛の流通量を増やす必要があるのではないか」と話す。
子牛を購買する県外の肥育農家の関心を集めることも鍵になる。鹿児島県の水迫畜産の水迫政治社長は「沖縄県の畜産業はポテンシャルはあるが、まだまだ未完成な部分は多い。良い種雄牛が出てきているという認識はある」と話し、今後に期待した。
(當山幸都、福田修平)