沖縄市宮里の路上で2022年1月未明、バイクで走行中の当時高校生だった男性(18)と沖縄署に勤務していた県警警務部付の巡査(31)が接触し、男性が右目を失明する重傷を負った事件。那覇地検は6月29日、巡査を業務上過失傷害の罪で在宅起訴した。県警幹部は「あらゆる捜査は尽くした」と話す一方、特別公務員暴行陵虐致傷容疑で書類送検した結果の罪名変更に、悔しさを含んだ複雑な表情を見せる。同幹部は「容疑を立証するには警棒を握っていた巡査の内心を立証する必要がある。故意と判断するには客観的決め手に欠く」と唇をかむ。
目撃者おらず
現場は暗く人通りの少ない路地。接触の目撃者はおらず、付近に接触の状況を捉えた防犯カメラなどはない。道幅は3メートルほど、約25キロの速度で対面から向かってきたとされる男性のバイクに、所持した警棒を差し向ければ、接触の回避は困難といえる路地だ。
バイクのハンドル上部には風防が取り付けられていて、向かい合った状態で警棒を差し出せば、風防に遮られ顔面付近に当たる確率は低いとみられる。風防に警棒の接触痕は確認されなかった。関係者によると、双方が接触したと主張する場所や位置関係にわずかな認識のずれがあり、一概に双方とも自分に有利な供述ばかりはしていないという。同関係者は「バイクの横側から一定以上の強い力が加わったと推察される。不注意でぶつかっただけで、あれだけのけがは負わないだろう」と話す。
罪名変更
県警は現場で再現実験を重ね、力学的な見地などから接触時の衝撃の強さなどを推算。男性のけがの度合いとバイクを止めにいった際に警棒に当たって生じる衝撃とを比較し、必要以上に力が加えられた可能性などを検証した。
しかし、当初から巡査は県警の調べに「一瞬のことで分からない」とし、接触時の記憶は鮮明とはいえない上、故意にけがを負わせる行為はしていないと主張した。捜査関係者は「過失の可能性がある中、過失ではないと立証するのは相当な困難になる」と漏らす。
県警は複数の専門家の見解を交え巡査の一連の行為は故意による暴行と結論付け書類送検した。
那覇地検は集積した証拠を分析、警察官として必要な安全義務を怠った職務上の過失と認め、罪名を変え業務上過失致傷罪で起訴した。
関係者は「極めて故意に近い過失」と見解を述べる。「故意による暴行の立証は当初から困難視されていた。状況証拠を積み重ねても、本人の恣意(しい)的な部分の立証は難しい上、公判で立証できなければ罪に問えない可能性すらある。発生から約1年半、被害者のためにも、一日も早く起訴につなげ、前に進める必要性があったのではないか」と話した。