沖縄芝居の劇団「大伸座」(大宜見しょうこ代表)が16日、浦添市の国立劇場おきなわで「北谷シベー物語」(大宜見小太郎作)を上演した。実話を元に差別や偏見がテーマの作品で、約30年ぶりの上演となった。物語の舞台は昭和初期だが、現代にも通ずるテーマの作品を俳優たちの熱演や演出の妙で見せた。
生まれながら口元に傷(シベー)がある次良(玉城匠)は、心優しい青年だが、貧しさから石けんを盗み刑務所に入る。出所後に叔父(高宮城実人)がいる久米島で生活するが、島民は島の窃盗事件は前科持ちの次良「北谷シベー」の仕業だとぬれぎぬを着せた。
次良をよく知る石川探偵(嘉数道彦)が次良の潔白を証明。だが、島で暮らせないと判断した次良は本島へ戻った後、再び盗みを犯してしまう。北谷に住む目が見えない母(赤嶺啓子)や妹(奥平由依)に会いに行くが、次良を追ってきた石川探偵に捕まる。
芝居の幕開けや、場面が久米島から本島に切り替わった際のサイレンの音は、小太郎の台本にある演出。次良が罪を犯したと示す記号のような効果もあったが、少し唐突感もあった。
叔父との別れの場面で流れた「アメージンググレイス」は大宜見しょうこの演出だ。同曲は過去の過ちを悔い改め、許してくれた神に感謝の祈りをささげる意味がある賛美歌。更生を誓った次良の思いと叔父への感謝が伝わる。ここで次良の思いが丁寧に表現された分、再び盗みを犯すまでの心の変化も見たかった。
俳優たちの熱演も光った。更生しようと努力する次良のひたむきさ、周囲の偏見で再び犯罪の道に戻ってしまう悔しさや悲しみを玉城が好演。親子の再会も涙を誘った。再犯した次良を追った石川探偵が、逮捕前に次良と家族が別れの時間を持つことを無言で許す嘉数の演技には情の深さを感じた。ムチ大工の金城真次やそば屋の上原崇弘、包容力がありながらもおかしみのある叔父の高宮城など、コミカルな演技もスパイスとなり、社会課題をテーマにした舞台を人情劇に昇華させた。
(田吹遥子)