<書評>『花ゆうな 第二十九集』 日常の悲喜に触れて詠う


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『花ゆうな 第二十九集』花ゆうな短歌会著 花ゆうな短歌会・2000円

 花ゆうな短歌会(主宰・比嘉美智子)著『合同歌集 花ゆうな 第二十九集』が刊行された。25人の会員が自選25首で625首を所収。全体に流れるテーマは沖縄。戦後の生活風景等である。

・九十年生き残るうちにまた戦さ新聞の余白に平和と記す 神里直子
・五十年前と変はらぬ大見出しそぼろ雨降る今日復帰の日 金城芳子

 短歌は人生。短歌一首は小説の一冊をもしのぐことがあるとも言われて来た。戦禍をさまよい、灰じんと化した戦後をたくましく生き抜いて来た人々。平和であってこそ自由に表現できる日常の喜び、悲しみ。短歌との出会いは、その思いを十分に満たしてくれている。二度とやってはならない戦争、ひたすらに平和を願いつつ詠い続ける。

・草の芽の「色(いる)の清(ちゆ)らさ」よ沖縄の季節うりづん萌むこの月 永吉京子
・片降(カタブイ)に厚葉きらめかせフクギの木は柑子(かうじ)のごとき実をふりこぼす 湧稲國操

 方言を取り入れた歌の多いことに、喜びを感じる。歴史をさかのぼってみると、沖縄戦や廃藩の同化政策が沖縄方言を消していった苦悩の時代があった。当然のこととして短歌の世界をも、揺り動かして来た。方言の美しさ、情感の豊かさを今後も詠い続けていってほしい。

・古着着て「ララの贈り物」と喜びし我らの二十歳 大学時代 比嘉美智子

 ララ物資を知る世代はもう少ない。戦後の貧しさに屈せず、沖縄の復興に、文学にエネルギーを注いだ若者たち。比嘉美智子もその一人である。「花ゆうな短歌会」を立ち上げ、県内外に秀でた歌人たちを輩出している。
 紙面の都合で紹介できなかったコロナ禍、ウクライナ戦争などが、数多く詠まれている。どうぞご一読くださって、鑑賞し、考える時間を共有したい。

 (玉城洋子・紅短歌会代表 歌誌「くれない」発行/現代歌人協会会員 日本歌人クラブ九州幹事・選者)


 はなゆうなたんかかい 比嘉美智子氏が主宰する会で、会員は25人。結成から29年間活動を続ける。主な行事に「識名園歌会」。会員の暮らしの中から生まれた作品は多彩。