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映画「八月十五夜の茶屋」 金井喜久子の応援歌 宮城さつき(フリーアナウンサー)<女性たち発・うちなー語らな>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 1956年公開のハリウッド映画「八月十五夜の茶屋」をご存じだろうか? 舞台は米軍占領下に置かれた沖縄の収容所。民主化を推し進めようとする軍政側と沖縄住民との異文化交流をユーモラスに描いた喜劇だ。後にゴッドファーザーでその名をとどろかせたマーロン・ブランドと、日本側からは京マチ子が主演を務め、世界的ヒットとなった。

 この映画の沖縄音楽を手がけたのが、宮古島出身の作曲家金井喜久子である。日本人女性で初めて交響曲を作曲し、72年の沖縄本土復帰記念式典では祝典序曲「飛翔」を作曲。他にも、日本レコード大賞童謡賞を受賞するなど輝かしい功績を残すが、この映画の音楽を手がけたことはあまり知られていない。

 そこで、昨年発足し、私も発起人の一人である金井喜久子プロジェクト実行委員会が本年度の活動としてフォーカスしたのが、金井喜久子と映画「八月十五夜の茶屋」である。

 金井さんとは親戚関係に当たり、当プロジェクトの実行委員のお一人でもある川平朝清氏は留学先のアメリカで映画を鑑賞し、オープニングで、ましゅんく節が流れ、シネマスコープ全面にkikuko kanaiの文字が踊った際には、胸がいっぱいになり、涙があふれたと話す。

 沖縄の芸能と音楽を世界に知らしめたいと、生涯に渡り、その素晴らしさをあらゆる場面で発信し続けた彼女は、この映画の中にも沖縄民謡をちりばめていた。

 自国の占領行政への自虐的とも取れる風刺がこの映画の面白さの肝であるが、その一方で統治する側の視点で描かれた県民像は侮辱的であるとの見方が沖縄側にあったのも事実だ。

 映画内で流れる沖縄音楽の一つに宮古島の豊年の歌「世や治れ」がある。世や治れ、きっと暮らしは良くなると、戦争で全てを失った故郷沖縄への金井さんからのあふれんばかりの応援歌に感じた。

 来たる8月20日沖縄コンベンションセンター劇場で開催するイベント「金井喜久子と映画八月十五夜の茶屋」ではこの映画の上映に続き、同名小説の和訳を務めた梓澤登氏、映画監督宮平貴子氏、川平朝清氏(VTR出演)を交えてのシンポジウムと映画音楽のミニコンサートを予定している。

 できるだけ多くの方に見てほしい一心で無謀にも無料公演を決めた。目下、多くの方々のご支援の下、開催に向け奔走する日々。難題も多く、時にくじけそうにもなるが、金井さんがこの映画音楽を手がけたのが今の私と同じ50歳だと知ると、丸まった背筋がぐわんと伸びた。