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【連載】県民、観光客の足として定着 輸送力拡大が安定経営の試金石に 経年劣化に伴う設備投資も続く<ゆいレール開業20年課題と展望・上>


この記事を書いた人 琉球新報社

 8月10日で沖縄都市モノレール開業から20年となる。経営的な課題は山積する一方で、定時・定速の公共交通機関として利用が広がり、2019年度に過去最高の年間乗客数1975万7千人を記録するなど県民の足として定着した。これまでの成果と今後の課題、展望を探る。

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混雑時間帯に合わせ、モノレールの利用マナーの周知を図る職員=4月10日、那覇市の沖縄都市モノレールおもろまち駅

 「乗車できない。何とかならないか」。2018年、沖縄都市モノレール社には03年の開業以来、過去にない苦情が増えていた。県民や国内客に加え、インバウンド(訪日客)需要を取り込み、混雑が顕在化した。開業から数年は乗客数が伸び悩んだだけに、生え抜きの社員の一人は「うれしい悲鳴だった」と振り返る。輸送力増強が求められ、20周年の節目を期に念願の3両化導入が決まった。依然として、経営課題を抱えるものの、沖縄の社会基盤として着実に成長を続けている。

 20年前、戦後初の軌道系交通機関として運行が始まった。「夢発進」。希望あふれる当時のポスターとは裏腹に債務や多額の借金を抱える厳しい船出だった。徐々に利用が広がり、開業から11年目(13年度)にして1日平均乗客数が4万人を上回った。2010年度から右肩上がりで上昇し、18年度に5万人を突破。浦添への延長区間が開業した19年度には5万6千人余に到達した。経営は好転し、17年度から4年連続で単年度黒字化に成功した。

沖縄都市モノレールの湖城英知社長(当時)の合図で出発するゆいレールの1番列車=2003年8月10日

 それでも延伸などによる設備投資などがかさみ、18年度決算の時点で27億1700万円の債務超過に。区間延長事業を終えたばかりだったが、19年度から3両化導入加速化事業が始まった。DES(債務の株式化)で資金調達を実現し、3両編成車両の発注にこぎ着けたものの、債務超過は横たわったままだ。さらにコロナ禍の行動制限で20、21年度は乗客数が激減し、赤字転落が財務を圧迫した。

 経営的には再び難局を迎えているが、節目の今年、県内は人流が戻るなどコロナ禍からの回復が顕著になっている。22年度は1日平均乗客数が4万人後半まで復活。23年度(4~7月)は5万1777人で推移する。10日からは輸送力が1.5倍の3両が始動する。2編成から運行を開始し、9編成を稼働させ、混雑緩和を図る。これにより2両を合わせ現在の21編成から25編成に増強されることになる。

ゆいレール祭りでお披露目された3両編成のゆいレール車両=7月2日、浦添市前田のゆいレールてだこ浦西駅

 モノ社の担当者によると、現状では1日平均乗客数5万7千人で採算が見込めるという。経営安定化へ鍵を握るのは集客力と利便性の向上。担当者は「コロナ前には乗り残しが発生していた。3両化で大量輸送が可能になる。定時乗車がより確実になる」と収益改善への効果を期待する。

 今後はインバウンドの拡大や延伸先の開発も見込まれ、7年後の1日平均乗客数は7万2千人を予測する。開業から20年。一時最大で64億円あった債務超過は22年度に14億9400万円まで縮小した。設備の劣化で投資先行型の財務体質はついて回るが、新たな輸送体制が経営安定化への活路となるか。注目が集まる。
 (謝花史哲)