<書評>『琉球文学大系2 おもろさうし 下』 鑑賞するための多様な視点


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『琉球文学大系2 おもろさうし 下』名桜大「琉球文学大系」編集刊行委員会編さん 波照間永吉校注 ゆまに書房・6820円

 本書解説の「オモロの“場”と歌唱者」には、オモロを掘り下げて鑑賞するための5W1Hを基盤とした多様な視点が盛り込まれている。また、解説の『図帳 当方』の「冬至元日十五日唐玻豊出御之時御備図」は、王府儀礼と近世琉球のオモロ歌唱の場が密接につながっていることを示すが、第二十二はその特徴がよく表われた巻である。

 例えば、巻第二十二の冒頭歌を含む二〇首の「稲穂祭之時おもろ」は男性官人が謡っているが、詞章の内容は神女オモロである。おそらく、稲穂祭が近世琉球の王府儀礼と密接に結びつき、官人男性が謡うオモロとなったのであろう。ちなみに、第二十二は、二首を除いてすべてが重複オモロであることから、第一~第二十一を編纂(へんさん)した後、再編したとされる。

 再編の要因は、オモロの場の改変であると思われるが、その背景には向象賢や蔡温による神女祭祀(さいし)の改革があり、国王中心の王権儀礼を重視したからである。おかげで、新たなオモロの場が創出され、冊封使歓待の儀礼の場で「しよりゑとふし」が謡われた。その詞章が第二十二1554番であるが、伊波普猷の『琉球戯曲集』の「戌の御冠船の御時」の中秋宴では、その詞章は記されず、安仁屋掟親雲上以下6人のオモロ人数の名前を記す。そして、「神歌こねり」は、踊りはなく、謡うのみであると述べる。また、山内盛彬採譜の「しよりゑとふし」は、最後のおもろ主取・安仁屋真刈からの聞き取りであるが、1554番の「しよりゑとふし」の詞章とほぼ一致している。

 要するに、1554番は詞章・フシ名を記し、山内採譜のオモロは詞章・フシ名・歌唱法を示す。そして伊波は「謡うのみ」と記すが、それらを〈場〉を中心に考えるならば、近世琉球の王府儀礼のオモロは、踊りを伴わず、男性歌唱者が謡うということになる。その意味において、解説の「オモロの“場”と歌唱者」はオモロを読み解くための基本であり、本書は今後のオモロ研究の道しるべになると思考する。

 (狩俣恵一・沖縄国際大名誉教授)


 はてるま・えいきち 1950年石垣島生まれ、名桜大大学院教授。名桜大「琉球文学大系」編集刊行委員会委員長。主要著書に「南島祭祀歌謡の研究」、共編著書に「定本おもろさうし」など。