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ヒップホップダンサーから琉舞の世界へ…組踊フェイスパック誕生秘話(下)


この記事を書いた人 Avatar photo 田吹 遥子

 >>フェイスパック誕生秘話(上)はこちら。なぜ実演家が商品化まで?どうしてフェイスパックに?こだわった成分とは

 沖縄の古典芸能を上演する「国立劇場おきなわ」の土産品として販売が始まった「組踊」の化粧をモチーフにしたフェイスパック。制作したのは組踊の舞台にも出演する若手実演家の高井賢太郎さん(28)だ。神奈川県出身の高井さんは、なぜ沖縄の伝統芸能に魅せられ、パックを手掛けるまで伝統芸能のとりこになったのか。(田吹遥子)

 

琉舞に出合ったきっかけを話す高井賢太郎さん=浦添市の国立劇場おきなわ

 出身は神奈川、高校ではサッカーに打ち込み、体育教員を目指して日本体育大学に進学したという高井さん。大学ではヒップホップダンスに夢中になり、ほかにも日本舞踊、和太鼓など幅広く挑戦していたが、ある授業で琉球舞踊と出合った。

 ゆったりとした動き、そして音楽…。

「なんだこれ、って。なぜこんなにゆったりしてるんだろうって。気になっているうちに引かれていきました」。

 気づけば沖縄に飛び、琉舞道場の門をたたいていた。大学に通いながら沖縄通いも続け、大学卒業後に移住した。道場に住み込みで働き、県立芸大の大学院に通った。

「女形の踊りでも琉舞は女らしさというより、人間らしさを表現してるんです。内面を表現する踊りに魅力を感じました」。

伝統芸能を担う人たちの人間力にも魅力を感じたという。

 

組踊「孝行の巻」でおめけり役を演じた高井賢太郎さん(左)=5月13日、浦添市の国立劇場おきなわ

「『初めまして』の自分を住み込みで働くよう受け入れてくれた先生、大学で何を勉強したらいいかなど教えてくれた先生や先輩方。伝統芸能を取り巻く人、環境…全てが好き。自分も微力ながら沖縄の伝統芸能やそれを取り巻く人たちの力になれたらいいなと」。

そして決断する。「琉球芸能1本で生きていこう」

■舞台だけではない、新しい芸能の発信方法として

 そこからの高井さんの成長は目覚ましい。

2013年に玉城流敏風利美の会に入門し2年後には古典芸能コンクール新人賞、18年に優秀賞、21年に最高賞を受賞した。20年には国立劇場の組踊研修を修了した。始めて10年もしないうちにベテランの俳優陣と共に主要な役回りを任されるようになった。

順調にキャリアを積んでいた中、コロナ禍が直撃した。

2020年から22年のコロナ禍で決まっていた舞台はほとんどが中止、延期になった。

 「収入がほとんどゼロになった実演家の先輩もいました。舞台以外で伝統芸能を発信する方法が必要だと思いました」。

 そこでまず始めたのがYouTubeチャンネルだ。組踊研修生や県立芸大で一緒に学んだ歌三線の棚原健太さん(30)と箏の町田倫士さん(26)の3人で「リュウカツチュウ」というユニットを組み、古典音楽や伝統芸能を分かりやすく解説し発信した。

 

「リュウカツチュウ」としても活躍する高井さん(後列)

 今回の化粧品開発も、そんな活動の延長上にあるという。

 フェイスパックの包みには組踊の解説が実演家の写真やイラスト付きでびっしり。組踊に登場する印象的なセリフも記されている。

フェイスパックのパッケージには組踊の解説も

「フェイスパックから興味を持った人に、組踊を見てみたいと思ってもらうような作りにしました。だから、あくまでも実演家としての活動なんです」と高井さん。

 すでに次なる商品アイデアも。びんつけ油を素材として、顔や髪、リップとしても使える「5in1保湿クリーム」の制作に向け、プロジェクトも動き始めている。

「組踊の素晴らしさを知ってほしい、沖縄の伝統芸能を知ってほしい、沖縄の役者を知ってほしい、とにかく舞台を見てほしい。フェイスパックなどを通して発信することが沖縄の伝統芸能の一歩に協力できればうれしいです」。

 キラキラしたまなざしは、沖縄の伝統芸能の未来を見据えていた。

◇    ◇

 フェイスパックは国立劇場のほかにも県立博物館・美術館内や首里城公園内のショップで販売している。オンラインでも購入できる。

 

(※高井賢太郎の「高」は旧字体)