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知事、再び国連出席 発信する権利に注目 口頭声明以外の成果も 阿部藹<託されたバトン 再考・沖縄の自己決定権>7


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
2015年の県民大会開会前に「艦砲ぬ喰ぇー残さー」を歌うでいご娘=沖縄セルラースタジアム那覇

先週土曜日、読谷村楚辺で「艦砲ぬ喰ぇー残さー」の歌碑建立10周年を記念して開催された「きらめくゆーばんた夕焼けコンサート」に足を運んだ。コンサートの最後を飾った「でいご娘」の演奏による「艦砲ぬ喰ぇー残さー」(作詞作曲・比嘉恒敏)を聴きながら、筆者は8年前の国連欧州本部での情景を思い浮かべていた。

実はこの曲、当時の翁長雄志知事が参加した国連人権理事会のサイドイベントの会場で流されていたのだ。名護市辺野古の新基地建設に伴う環境に対する権利の侵害や、抗議活動の弾圧で侵害される表現の自由権、そして沖縄の歴史と自己決定権の侵害を解説するビデオの最後に沖縄セルラースタジアム那覇で行われた県民大会の写真とこの曲が使われ、会場に「うんじゅん 我んにん いゃーん 我んにん 艦砲ぬ喰ぇー残さー」と歌う声が響いたのだった。

沖縄の市民社会が長きにわたり繋(つな)いできたバトンがついに沖縄県知事という行政のトップに渡り、県独自の国連外交に一歩踏み出したこの時、沖縄の人々の「共通の苦しみ」が込められたこの曲が流れたのは今思えば非常に示唆的であった。

今月15日、玉城デニー知事が9月から開催される国連人権理事会に出席する方向で調整していると琉球新報が報じ、玉城知事はその日の各社の取材に対して「国連に出向いて発言をしたい」と語った。本連載は、2015年に翁長前知事が国連人権理事会で「人権や自己決定権が蔑(ないがし)ろにされている」と発信したことを受けて、沖縄の人々の自己決定権を国際人権法の観点から検証することを目的としている。その意味で、翁長氏が繋ぎ未来に託したバトンを今回玉城知事がどう引き継ぐのか、という点に筆者は関心を寄せている。

一方で、これまでも議論してきたように自己決定権は非常に複雑で扱いの難しい権利でもある。水への権利や、表現の自由権、教育を受ける権利など、国際人権法で規定された人権の多くが「個人」の権利なのに対して、国連の場で語られる自己決定権は「集団的権利」であり、「どのような集団」としてその権利を主張するのかという議論と切り離すことができない。そして、どのような集団として主張するのかによって、「独立の権利」なのか「高度な自治の権利」かなど、その中身が変わるという複雑さも有している。

玉城知事が自己決定権に触れるのか、触れるのであればどんな形で言及をするのか、触れないのであればどのような権利について国連の場で発信するのか、という点にも注目したい。

人権理事会での口頭声明は長くて2分という非常に短い時間しか与えられない。国際社会に沖縄の声を届けるためには、書面声明を提出したり、国連欧州本部の会場で行うサイドイベントで発信の機会を設けたり、国連人権高等弁務官事務所の担当者と個別に意見交換を行ったりすることが本質的な成果を得る上で重要になってくる。

8年前に国連人権理事会に参加した際、翁長氏は口頭声明の直前に「沖縄における軍事化と人権侵害」と題するサイドイベントで基調講演を行った。翁長氏はこの講演で沖縄における人権侵害を語るにあたり、沖縄返還でもなく、戦後の米軍による占領でもなく、約140年前の琉球処分でもなく、約600年前の琉球王国の成立から語り始めた。

琉球国が450年間、独立国として各地との交易で栄えていたこと。1879年に日本に併合され、言語が禁止され、日本人となるべく努力を強いられたこと。それなのに太平洋戦争末期の地上戦では言語の違いからスパイの疑いをかけられ、日本兵に殺された県民もいたこと。戦後米軍に占領され、土地が強制接収されたこと。そして1952年、日本が「米国から独立をする引き換えに、私ども琉球・沖縄を米軍の施政権下に差し出した」こと。1972年の本土復帰まで、国籍も権利もなく、無法地帯のような厳しい時期を過ごしたこと。復帰した後も米軍基地は減るどころか増えたこと。そして老朽化した危険な基地の代わりに海を埋め立てて新しい基地を差し出せと要求されていること。翁長知事は600年の歴史に立ち、沖縄の人々の「共通の苦しみ」を踏まえ、「時代の変化の中で自己決定権というものがある意味蹂躙(じゅうりん)されてきた」と語った。

サイドイベントでの翁長氏の基調講演を聞いた後、国連特別報告者のヴィクトリア・タウリ・コープス氏は会場に向けて「沖縄の歴史を見れば、沖縄が強いられてきたこれまでの不正義に対して救済がなされなければならないということが皆さんにもお分かりいただけると思います」と語った。しかしその後も沖縄への不正義は止まらず、PFASによる水の汚染やさらなる軍事化に伴う負担によって「共通の苦しみ」は深まっている。

翁長知事から託されたバトンがどう未来につながるのか―実現すれば沖縄県知事として2回目となる今回の国連訪問で、玉城知事が何をどのように発信するのかが大きな意味を持つ。

 (琉球大学客員研究員)
(第4金曜掲載)