<書評>『島嶼左翼はどこへゆく―沖縄的言説風景』 内容多岐、思想の現在の書


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『島嶼左翼はどこへゆく―沖縄的言説風景』宮城正勝著 ボーダーインク・3960円

 著者のあとがきに「本書でぼくは、一部の知識人のことを「島嶼左翼」とか「否定知識人」と呼んでいます。そして・・・」と続く。少したじろぎながらも、刺激的なタイトルに導かれるように拝読する。

 著者は長年にわたり、出版会社に携わりながら歯に衣(きぬ)着せぬ言論や思想の展開を地道に継続しつつ、句集の発刊もあり俳人でもある。2004年から23年、著者が数十年にわたってブログ、雑誌などに書いてきた評論を基に出版。知の巨人として知られる吉本隆明の「知る人ぞ知る」の論客でもある。

 冒頭から「空転する否定の文体」「水と油…」「基地をめぐる言説風景」や「否定的知識人たちの『祭り』」と、批評や論評が著者のまなざしを通して、現在性の時間軸と場所性を身体性に沈めながら浮上して俯瞰(ふかん)する。本書を読んで、吉本隆明の「南島論」の中の「グラフト国家論」の一節を思い出す。「横合いからきて国家を掌握することが可能だということ。そういう国家の方が多いのではないか」と述べていた。そのことはわが琉球・沖縄にも通底することなのだろう。さらに「古形」も「現代性」も世界的同時代性なのだと、思考がまどろんでくる。

 「肯定批評の解体力」では芹沢俊介を取り上げながら持論を展開して興味深い。末尾の方の「地べたの普遍性」の章では現代文学・思想史と幅広い分野を掘り下げる文芸評論家の加藤典洋が描く戦後脱出の書と言われる640ページの「戦後入門」に触れて、さらに論を展開する。

 刺激的なタイトルの本著は、内容も多岐にわたっている。著者自身も島嶼に住む1人である。島嶼と大陸を相対化すると、日本だって島嶼かもしれない。人文地理学的思考はさておき、先ず「現存在のリアリティーに身体性を置いて」柔軟に思考を展開しなければならないとの書でもある。島嶼性の同じ船に乗り合わせる書き手のみでなく「ゆいまーる精神」が無意識に立ち上る。どもりながらも足腰の強靭(きょうじん)さが伝わり、ポスト本書の往復書簡への発展も期待される。書くこと、書かれること、論評できること、されること、「アウフヘーベン」の書にもなるよう期待する。

 (ローゼル川田・第45回山之口貘賞詩人、俳人)


 みやぎ・まさかつ 1941年国頭村生まれ。新聞社勤務などを経て90年出版社ボーダーインクを設立。2016年に退任。著書に句集「真昼の座礁」。