『沖縄現代史』 沖縄理解への入門書


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『沖縄現代史』桜澤誠著 中公新書・920円+税

 本書は、沖縄の現状を一般読者に伝える目的で書かれている。20世紀に沖縄に生まれた者、20世紀から沖縄に関心を持った人には、新鮮さは少ないと思う。「そうだったのか」という疑問氷解よりも、「そうだったよな」との懐古の感情を呼び起こす。

 しかし、21世紀に生まれた人やこれまで沖縄に関心を持たなかった日本人には、沖縄を知る入門書となっている。本書は、現在に至る沖縄の戦後史を政治の分野に軸足を置き、経済や文化にも目配りをし、平易な表現で描く。沖縄理解に際して最初に手にすべき本の一つだ。
 本書のあとがきに登場する「沖縄問題」とは何か。「沖縄の現状」と同義語ではない。誰にとっての、どのような問題なのか明確にしなければならない。それを見失うと、問題の処理を誤ってしまう。ましてや、問題の解決には程遠いからだ。
 「沖縄問題」とは、多分に当事者の言葉ではなく、沖縄以外に住む人々が沖縄に対しことがうまく運ばないことを指しての表現だと思う。沖縄に対し道義的、政治的な利害関係を持つ人々である。もし沖縄の人が「沖縄問題」という表現で語り出すときは、沖縄とそれ以外の世界(沖縄を取り巻く環境)との相互作用を意味する。
 かつての東南アジア研究で、レジリエンシーなる言葉が頻繁に登場していた。本来は、物理学のはね返す力という弾性を意味する。ここでは、環境の影響に惑わされない「回復」力、あるいは「強靭(きょうじん)」力といった意味である。欧米の植民地とされた経験を持ち、発展途上の経済段階にあり、多民族を抱える東南アジア各国の国家目標がレジリエンシー強化であった。
 ユーラシア大陸の島嶼(とうしょ)部に位置する沖縄は、歴史的にも文化的にも環境からの影響を受け続けてきている。その点で、東南アジアと共通性を持つ。沖縄内部のみに焦点を当てるよりも、環境との相互作用から、沖縄の社会における政治的、経済的、文化的影響がどうように展開したのかを描くことが重要だろう。米軍基地にみる日本政府の沖縄への介入の結果、生じてきた現象が身近にあるからだ。閉じた沖縄の現状を描く本書は、より開かれた沖縄の現代史への跳躍台となっている。(我部政明・琉球大教授)
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 さくらざわ・まこと 1978年、新潟県生まれ。立命館大大学院卒。博士(文学)。同大文学部助手、日本学術振興会特別研究員などを経て、2013年4月から立命館大衣笠総合研究機構専門研究員。専門は日本近現代史・沖縄現代史。

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