『日本軍「慰安婦」問題の核心』 問題歪曲に厳しく警鐘


社会
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『日本軍「慰安婦」問題の核心』林博史著 花伝社・2700円

 著者は、BC級裁判、軍隊・戦争論の近現代史研究の第一人者であり、沖縄戦研究者として県史編集にも携わる。本書は、「慰安婦」問題の歪曲(わいきょく)、隠蔽(いんぺい)、捏造(ねつぞう)によって日本の未来が閉ざされることに、歴史学者として厳しい警鐘を鳴らす。

 1991年、韓国の3人の元日本軍「慰安婦」による日本政府提訴の裁判は、戦時性暴力と女性の人権の問題として世界中に衝撃を与え、各国から元「慰安婦」たちが名乗り出る契機となった。彼女たちの声は、沖縄戦の被害者に「慰安婦」がいたことを知らせた。92年、筆者らは沖縄戦時の慰安所調査から、延べ121カ所の場所を確認し「沖縄戦慰安所マップ」として報告した。しかし、被害女性たちの情報は、少ないものであった。
 各国の被害者証言と国内外の1000点近くの資料から、日本軍「慰安婦」制度は、軍の公式施設として法的根拠を持ち、「営外施設」として管理運用されていたことが分かる。軍慰安所規定による管理運用、軍の担当部署など、指揮命令系統と女性たちの性奴隷状態が、ほぼ明らかになりつつある。
 本書は、日本軍慰安婦制度研究の深化に向けて「軍隊と性の関連を一つのパターンだけでとらえて来た、これまでの議論の見直し」という視点を提示した新鮮な論考を扱っている。「第4 米軍の性売買政策・性暴力」の章である。第1次世界大戦から1950年代までの米軍の将兵の売買春問題の歴史的変化を米国公文書館、米議会図書館所蔵の米軍資料から跡づけた、画期的な研究である。現在の沖縄駐留米軍将兵による性暴力は、米軍の性政策の歴史の変遷と、いかなる関連にあるのか。さらなる研究の成果が待たれる。
 本書カバーに使用された「沖縄で保護された朝鮮人慰安婦の写真」は、著者が米国立公文書館で発掘し、沖縄地元紙に掲載され関係者が名乗り出て反響を呼んだ。本書は、沖縄戦研究必読の書として、永く書架に配置されるだろう。(浦崎成子・フリーライター)
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 はやし・ひろふみ 1955年、神戸市生まれ。85年、一橋大大学院社会学研究科博士課程修了。現在、関東学院大教授。社会学博士。主著に「沖縄戦と民衆」「沖縄戦 強制された『集団自決』」など。

日本軍「慰安婦」問題の核心
林 博史
花伝社
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