【島人の目】「普段通り」こそテロ対策


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 大みそかの夜から新年にかけてのイタリアは相変わらずにぎやかだった。年明けの午前0時を契機に、いつものように全土で花火や爆竹などの炸裂(さくれつ)音が鳴り響いた。結果、死人こそ出なかったものの、爆発で腕や手を失ったり失明したりした重症者16人を含む190人が負傷した。

 けが人の多くは例年のごとく南イタリアのナポリ近郊に集中していた。12月29日には北イタリアのミラノ近くの町でも、花火の準備をしていた22歳の若者が、誤って火薬を爆発させて両手と両目を失い、全身に激しいやけどを負う事故もあった。
 そうした凶事は年々歳々、飽きもせずにイタリア全土で繰り返されるが、それでもことしは負傷者の数は少ない方だった。それはあるいは、IS(イスラム国)などの過激派テロへの厳重な警戒が敷かれる中での祝賀だったからかもしれない。 
 昨年11月に起きたパリ同時多発テロ以降、欧州は過激派テロへの警戒で緊張しきっている。パリ同時多発テロの実行犯を生んだべルギーのブリュッセルでは、年明けの花火大会が禁止されたほどだ。
 名指しで過激派の脅迫を受けているバチカンを抱くここイタリアは、さらに緊張しているかと思ったら、いつもと変わらないドンチャン騒ぎが起こって驚いた。それはしかし心地よい驚きである。いつも通りの祝賀騒ぎは「過激派の脅迫には萎縮しない」という国民の強い意志表示のようにも見えたからだ。
 警察や軍隊などの武力と共にテロ予防に効果的なのは、市民がテロに屈しない強い意志を持つこと、つまり「普段通りの」生活を続けることである。イタリア国民は昨年はミラノ万博を手始めに見事にそれをやってのけた。ことしもまたそうなることを願いたい。
(仲宗根雅則、イタリア在、TVディレクター)