『琉球列島のススメ』 島の自然、素晴らしさ伝える


社会
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『琉球列島のススメ』佐藤寛之著 東海大学出版部・2500円+税

 優秀な若手研究者を数多く送り出した本シリーズは、ついに沖縄から佐藤氏を起用した。前半は、琉球列島の山や海で人知れず繰り返される生き物たちの生と死を追い、幅広い自然科学の知識と野外での抜群の行動力を武器に、琉球版七十二候を自分のものにして行く。後半は、自分の自然観を研ぎ澄ませてくれた島々の自然の劣化に気づき、自然に対して筋を通すべく、それまでの経験や知識を総動員して環境教育に取り組み、自然保護の最大の敵である「人々の無関心」を切り崩しにかかる。

 東京下町生まれの彼は、お天道さま主義の出たとこ勝負、間違ったことが大嫌いな江戸っ子である。南の島に憧れて琉球大学海洋学科に入学し、カメの研究をしつつ県漁連に始まって山原や離島へと、好奇心の赴くまま遊び回り、自分が納得するまで己の手で確かめる。その行動は一見支離滅裂ではあるが、目指す先はぶれない。
 あるとき、山原でドングリを山ほど見つけた彼は、小学生の時に読んだ歴史まんがの1ページを思い出し、ドングリ料理を無性に試したくなってしまう。せっせとドングリを集め、苦労して殻をむき、丁寧にすりつぶし、繰り返し水にさらして乾燥させ、少々のデンプンを得る。さらに料理レシピを考え、専用の調理道具セットまでそろえる。これらは後半で語られる理科の授業に生かされ、学生に食べさせて現代の野菜のありがたさを理解させつつ、渋いアク成分(タンニン)によるタンパク質の変性の話から、タンニンによる染め物にも発展していく。ちなみに、ドングリ全粒粉の作り方はコラムにまとめてある。皆さんもぜひ挑戦していただきたい。
 社会の潤滑油となることを宜(よろ)しとする彼は、この他にも普段の暮らしの役に立たない面白い現象を見つけては、こだわりをもって次々と実践し、一人悦に入りながらも独特の語り口で琉球列島の素晴らしさを伝えてくれる。彼の持ち味であるクドくてアクの強い文章も、読み進めるうちにまひして楽しめるようになるだろう。(鹿谷法一・カニ博士)
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 さとう・ひろゆき 1973年、東京の下町で生まれ育つ。琉球大学大学院理工学研究科修了。博士(理学)。

琉球列島のススメ (フィールドの生物学)
佐藤 寛之
東海大学出版部
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