『豊里友行写真集「オキナワンブルー」』 言葉にならない現場の想い


社会
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『豊里友行写真集「オキナワンブルー」』 未來社・3800円+税

 写真家・豊里友行は粘り強い足で沖縄中の「現場」を歩いている。いま沖縄の写真家で最も現場へ足を運び続けているのは誰かと聞かれれば迷うことなく豊里友行の名を挙げる。現場に学び、耳を傾け、想(おも)いを寄せながら、時に人間らしい迷いやわだかまりを抱えながらも、ありのままの沖縄を撮る。

 1999年から2015年の間に、もがくようにして撮影された120点の写真で構成された本書の序文で著者はこう言う。「私は写真家として言葉にならないウムイ(想い)をずっと手探りしている」
 名護市辺野古や宜野湾市で撮影されたものが3割以上を占めているが、著者が撮る現場は闘いの現場だけにとどまらない。沖縄戦の癒(い)えぬ傷跡、庶民の生活、アメリカ兵が集う繁華街、いにしえより絶えることなく続けられる祈り、そうした生の暮らしの現場を写真という方法でとらえた沖縄のドキュメントである。本書は著者が生まれ育った沖縄にあるヒト・コト・モノに感じる鈍い痛みが通低音となっている。人間存在を本能的に肯定し抱擁しようとする写真家の意思は優しくも強い。
 特に目を引くのが、人間のカタチが活写されている点だ。人間の表情、気配、しぐさ、格好、寂寞(せきばく)、興奮、緊張…被写体からの視線が写真家のレンズをまなざし、読者にまで真っすぐやってくる。写真家が被写体と正面から向き合い、気持ちを通わせた上で撮ったからこそ、このようなことが可能なのだろう。街の風景写真からは、生活の匂いが立ちのぼり、モノを撮った写真でさえ、それにかつて関わった人々の声が聞こえてくるようである。モノクロームで表現された写真が、人間のカタチの意味を静かにあぶりだしている。
 2012年以降の写真が全体の8割近くを占め、本書は写真による同時代の証言集ともいえる。写真家のまなざしであると同時に沖縄の現場からの言葉にならない写真証言だ。自分たちの根を見つめ、現場を逍遥(しょうよう)する写真家が沖縄の想いを手探りしながらまとめた本書は、沖縄の未来に大きな力となるだろう。(松本太郎・写真編集者)
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 とよざと・ともゆき 1976年、沖縄市生まれ。日本写真芸術専門学校卒業、樋口健二に師事。沖縄に帰郷し、取材活動を開始。豊里友行写真展「辺野古」「戦世から沖縄世まで-彫刻家 金城実の世界」「沖縄桜」「NO! オスプレイ」など。

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