【島人の目】サリナスの若者たち


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 カリフォルニア州中部にサリナスと呼ばれる農業地帯がある。サンタバーバラを北上、シリコンバレーに到達する前にこの地にめぐり合う。この地を有名にしたのが作家のジョン・スタインベックである。彼はこの地で生まれ育ち、ピュリツァー賞やノーベル文学賞を受賞し、不朽の名作を残した。

 後にニューヨークに移住するが、代表作品「エデンの東」「怒りの葡萄(ぶどう)」などの基礎はここが背景となっている。「葡萄」とは、神の怒りによって踏みつぶされる「人間」のことを意味すると一般に解釈されている。
 農業従事者の生活環境、後継者の問題、メキシコ人の従業員(ほとんどが日雇い労働者のような仕事)との関連性、そして自然災害に左右される農業の実態などがテーマとなっていて興味深い。
 両作品は映画化された。エリア・カザン監督、ジョン・フォード監督。ジェームズ・ディーンやヘンリー・フォンダを有名な俳優に仕立て上げ、スタインベック自身一躍アメリカの寵児(ちょうじ)となった。
 あれから1世紀の歳月が流れ、サリナスの農園労働者の後継者も4、5世代に移り、若者たちは今近くの大学でコンピューター・サイエンスと取り組み、農業技術の改善を試みている。
 というのも、サリナスには15万7千人が住んでいるが、5人に1人の割合で貧困以下の生活者となっている。
 メキシコ系の若者はかって日系人がアメリカ社会に受け入れられようと必死の努力をしたように、しっかりとこの地に足を着け、将来に向かって着実に前進していると、2月7日のロサンゼルス・タイムズは報じている。
(当銘貞夫、ロサンゼルス通信員)