<南風>架け橋役、沖縄でも


<南風>架け橋役、沖縄でも
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 職場に入ったばかりの2006年4月、訪中代表団に随行し北京などを訪問した。当時は小泉純一郎首相の靖国神社参拝問題で政治関係が冷え込む一方、経済は活発な交流が行われ「政冷経熱」と呼ばれていたが、職場はこのような時期にも政府間の関係改善を願い、中国側と率直な対話を継続していた。

 そんな経済界の努力もあってか、06年年末には安倍晋三首相の「氷を砕く旅」と呼ばれる中国への公式訪問が行われ、日中両国は「戦略的互恵関係の構築」で合意。07年4月には温家宝首相が来日、国会演説が実現し関係は大きく好転した。職場の活動が関係改善の一助となれたことは誇らしかった。

 06年の訪中団で私は中国国家指導者との会談を初めて生で見た。中国側の通訳は中国外交部スタッフが務め、日本側は職場が雇ったプロの方が担当したが、的確な訳出で言葉が通じない者同士のやりとりを瞬時に成立させていく「魔法使い」のような姿に圧倒され、強烈な憧れを抱いた。

 同時に訪中代表団は毎年派遣されるのだから、実力をつけさえすれば自分もいつかはあの場で通訳をすることができるのではないかとも感じた。自分も「魔法使い」になるべく中国語と通訳の学習により熱心に取り組んだ。

 その努力が実を結び、10年から中国国家指導者との会談での通訳を任されるようになり、18年まで担当させてもらった。会談した相手は王岐山副首相、温家宝首相、習近平国家副主席、汪洋副首相、李克強首相。世界金融危機、東日本大震災、尖閣諸島国有化など会談はさまざまな情勢下で行われたが、どんな時でも自分の知識と声を使って日中のコミュニケーションを成立させてきたことは何事にも代えがたい財産だ。この経験をいつか沖縄にも還元できればと夢見ている。

(泉川友樹、日本国際貿易促進協会業務部長)