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県知事賞 与那城千恵美(宜野湾市女性連合会) 普天間の母親が感じる「ホントの平和」とは <第55回女性の主張中央大会>1


県知事賞 与那城千恵美(宜野湾市女性連合会) 普天間の母親が感じる「ホントの平和」とは <第55回女性の主張中央大会>1
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 第55回女性の主張中央大会(主催・県女性連合会、琉球新報社、ラジオ沖縄、沖縄テレビ放送)が9月20日、琉球新報ホールで開かれました。県知事賞をはじめ、入賞者7人の発表を紹介します。


 「お母さんあのさ~」と、くっついて来る私のかわいい2人の子どもたち。その子どもたちを「お母さん、話聞いてちょうだい」と泣かせることになってしまいました。私は、子どもたちといつも一緒にいるために専業主婦を選んだはずなのに…。なぜ、こんなことになってしまったんだろう。

 皆さんは今、平和だと感じていますか? 私は平和だと感じていました。周りには戦争体験者のおばあたちがたくさんいて、学校では毎年平和学習をしてきました。そのため、これまで平和についてしっかりと考えてきましたし、平和とは戦争のないことだと漠然と思っていました。

 そんな私が「戦争がなければ平和って言えるのかな?」と疑問が湧き、平和について真剣に考えるようになりました。そのきっかけは、2017年12月、当時3歳だった娘の通う保育園への米軍ヘリ部品落下事故でした。

 普天間で生まれ育った私にとって基地があることが当たり前で、何の違和感もありませんでした。しかし娘の保育園の事故の知らせを受けた時、頭が真っ白になって体が震えて涙が止まらなくなりました。保育園へ迎えに行った時、「お母さ~ん」といつもと変わらぬ笑顔で駆けよってくる娘を見て、思わず抱きしめました。その瞬間、魔法が解けたかのように「私たちはこんな危険な所に住んでいたんだ」と、初めて基地の危険性に気が付きました。

 保育園の事故からわずか6日後、今度は近くの小学校に窓枠が落下。安心安全であるはずの子どもたちの学校に、2度も空から物が落ちて来るというあり得ないことが起りました。

 事故後、保育園では天気のいい日でも、米軍機が低空飛行する日にはお庭遊びをやめてお部屋遊びに切り替えます。子どもたちはお庭遊びが大好きなので「何でお天気のいいのに、お外で遊べないの?」と悲しみます。小学校では米軍機が来たら避難する避難シェルターが設置されました。まるで戦時中かのように…。

 そんな中、今度は水道水、そして娘の通う小学校の運動場の土から有機フッ素化合物PFASが検出されました。PFASは子どもの発育への悪影響が指摘されています。普天間の子どもたちは発育に必要な「空、水、土」が危険な物となってしまいました。

 私たちを苦しめる物はそれだけではありません。保育園の事故後、米軍が部品は米軍の物と認めたものの、落下を否定したため自作自演との誹謗(ひぼう)中傷が相次ぎました。今でも私たちに「子どもをダシに基地反対するな」「基地のそばに住んだ人が悪い」などの言葉が投げ付けられ、私たちを苦しめます。

 それよりも、私が一番つらいのは子どもたちと一緒にいる時間が少なくなってしまったことです。子どもたちの環境をよくするため、県内外での講演会や要請のため走り回り、これまでのようにそばにいてあげられなくなりました。子どもたちは「お母さん行かないで」と泣きました。子どもたちに見られない所で、私も何度も何度も泣いてきました。私は家でも、打ち合わせや資料作りなどで、ずっとバタバタしています。

 そんな時に息子が大声で「お母さん、話聞いてちょうだい」と泣き叫んだことがありました。今でもその光景を思い出すたび胸が張り裂けそうになります。また、私がいない時は夫や母が仕事を休んで子どもたちを見てくれています。家族や周りの仲間の支えがあって、ここまで5年間続けられていることを心から感謝しております。

 これが戦後78年、本土復帰51年目の私にとっての沖縄です。これが、ホントに平和と言えるのでしょうか?

 子どもたちの成長は早く、私の元にいる時間は限られています。ある番組ではわが子と生涯で一緒に過ごす時間は母親の場合、たったの7年6カ月だと言われています。私は今、子どもたちとテレビを見ながら一緒にご飯を食べたり、週末に一緒に遊んだりする、そんなたわいのない時間がどれだけ大切かを身に染みて感じています。そんな、普天間で子育てしている母親の私が感じるホントの平和とは。戦争がないのはもちろんのこと、子どもたちが笑顔で安心安全な学校生活が送れること、そして、親子が笑顔で、一緒の時間を過ごせること、そんな当たり前の日常があってこそ、ホントの平和ではないかと思っています。

 事故当時7歳だった息子は中学1年生、3歳だった娘は小学3年生になりました。今では「お母さん頑張ってね」と背中を押してくれています。そして、子どもながらも沖縄の今、日本の今をしっかりと見ています。大人の私たちこそ、沖縄の今、日本の今をしっかりと見つめ、ホントの平和について真剣に考える時が来ているのではないでしょうか? 環境が子どもたちの発育へ与える影響は計り知れません。これからも、笑顔ある子どもたちが増えるよう、微力ながら、より良い環境づくりを目指して頑張ります。人間形成の真っただ中にある次世代を担う子どもたちのために!