運命の宝箱、次代へ Cocco


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「映画を見た子が『これを作った人にいつか会いたい』と思ったらうれしい」と話すCocco=琉球新報社(諸見里真利撮影)

 県出身アーティストのCoccoが岩井俊二監督の映画「リップヴァンウィンクルの花嫁」に出演している。監督との運命的な出会いや役者業に対する考え方、上映中の出演作「人魚に会える日。」(仲村颯悟監督)などへの思いを聞いた。

 ―映画は岩井監督からオファーがあったそうだが。
 「出演した舞台(ジルゼの事情)を監督が見に来て、終演後に初めて会った。1週間後に(原作の)本が送られてきて、読んだら『できる』と思ったから『明日から撮影できます』と言って。でもそれから台本が届くまでに1年くらいかかった。自分は携帯電話を持たないから、(お見合いサイトで知り合った男性と結婚するという)台本の前半が全く意味が分からなかった(笑)」
 「中学生のときにテレビでドラマか何かを見ていて『これを作った人と私は会う』と決めた。作品を作った人を初めて意識して、メモに書いて宝箱に入れた。その人が岩井俊二監督だった。どの作品かは覚えてないけど、自分を突き動かしたんだと思う。監督が出演している映画にCoccoの曲を使ってくれることはあったけど、会いには来なかった。今回『やっと来たなー』と思った。この映画も見た子が『これを作ったのは誰だろう。いつか会えたらいいな』って思って、かなったらうれしい」
 ―演じる時は素に近いか、それともしっかり役作りするか。
 「この作品は監督がライブのMCを書き起こして、せりふを当て書きしてくれたから全部がデジャビュ。自分が思っていることをせりふにしてくれて、覚えることもなかった。役に同化すればよかっただけ。(主演の)黒木華ちゃんの役(七海)も当て書きだった。華ちゃんはしっかり演技をする女優だから役と同化するのは動揺すると思う。それは監督の作戦で、戸惑う七海(華)を撮るのが楽しかったんじゃないかな」
 「芝居はすごく楽しい。歌をやってきたごほうびと受け止めている。楽しいことだけやって許されるとは思ってない。どMなんだと思う(笑)。だからことしは本業の音楽を真面目にやります。お楽しみに」
 ―演技する上で祖父の真喜志康忠を参考にするか。
 「それはない。でも沖縄の現代劇には出たい。うちなーぐちがしゃべれないから(伝統的な)芝居はできない。そんなことしたら、後生(ぐそー)でおじいちゃんに会ったときに『中途半端なことするな』って絶対に怒られる」
 ―沖縄でのライブの予定は。
 「沖縄でライブをやるのはすごく難しい。物販は売れない(笑)。旅費(機材の輸送費)もかさむ。県民が志を高くアーティストを迎えようってならないと来られない。絶対に赤字になる。そんな沖縄が好きなんだけどね。でも昨年は沖縄で(『沖縄のウタ拝』公演で)踊りができたからよかった。ことしも再演できそうだから、東京に持って行きたい。東京の人に観光用でない本当の沖縄を見せたい。自分はウチナーンチュだから、本当の沖縄だと思うものを本土に伝える手伝いができればいい」
 ―「人魚に会える日。」も本当の沖縄だと感じるか。
 「うん、うん。(完成した映画を見て)申し訳ないと思った。自分が颯悟の年齢のとき、(基地問題を)終わらせられると思ってた。でもできなくて、そのころ生まれた子がまた同じ問題に向き合っている。自分がいけにえになって終わるならいつでもなる。自分は思いつく限りのことをやって駄目だったけど、沖縄に恋い焦がれていた思い、山を動かしたかった気持ちを覚えている。そのとき大人に手伝ってもらいたかったけど、全員に手伝ってもらえたわけではなかったから、手伝える大人になりたいと思っていた。今、20歳ぐらいの子に『手伝ってほしい』って言われたら断る理由はない」(聞き手 伊佐尚記)
 ☆「リップ―」の粗筋は派遣教員の皆川七海(黒木華)がSNSで知り合った男性と結婚するが、家を追い出されてしまう。七海は奇妙なバイトで里中真白(Cocco)に出会い、同居することになる。26日からシネマパレットで公開。