<南風>舞台裏のヒーロー


<南風>舞台裏のヒーロー
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 国際交流における相互理解の手段は多種多様だ。音楽やスポーツなどは人々の心や身体に直接訴えかける。コンサートホールやスタジアムでの時間や空間、感動や経験を共有することで絆を育み、基本的に言葉は要らず翻訳も必要ない。

 しかし、より深く交流しようとすれば、やはり言葉を使うことが重要な意味を持つ。ただ、外国語の習得には膨大な時間とコストがかかるのが一般的であり、決して容易にマスターできるものではない。そのため、多くの場合は通訳者が間に入ることになる。

 異なる言語を横断し、複雑なコミュニケーションを成立させる技能を持つ通訳者が果たしている役割は極めて大きい。私自身も仕事上の必要から中国語通訳のスキルを磨き、経済分野を中心に、さまざまな場面で交流をつないできた。

 よく勘違いされることだが「中国語ができる」ことと「中国語の通訳ができる」ことは別次元の話である。通訳者にとって中国語のスキルは最低限の要求に過ぎず、理解力、表現力、集中力、胆力のほか、幅広い背景知識なども求められる。

 特に、言葉の裏にある相手の文化に対する理解は必要不可欠だ。例えば「半旗を掲げる」を中国語に訳せば「降半旗(半旗を下ろす)」となる。また、日本では保守派を「右」、革新派を「左」と表現することが多いが、中国では革命・建国以来の体制維持を重視する保守派を「左」、市場経済導入などの改革を重視する革新派を「右」と呼ぶ。日本と中国では視点や発想が異なっているのだ。

 通訳者はこのような言葉や文化の違いを理解し、常に注意を払いながら誤解のないよう訳出し、良質なコミュニケーションを陰で支えている。国際交流と平和発信の拠点を目指している沖縄。より多くの「幕後英雄(舞台裏のヒーロー)」が求められている。

(泉川友樹、日本国際貿易促進協会業務部長)