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<沖縄基地の虚実3>九州拠点が効率的 「強襲揚陸作戦」の足かせ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
ホワイトビーチに入港した佐世保基地所属の強襲揚陸艦ボノム・リシャール(左)とドック型揚陸艦グリーンベイ=2015年8月28日、うるま市勝連のホワイトビーチ

 日本周辺にある「潜在的紛争地」について、政府はこれまで朝鮮半島と台湾を挙げ、沖縄の米海兵隊はこうした事態に対応する「抑止力」であり、沖縄は駐留地として地理的優位性を有していると強調してきた。まず北朝鮮をめぐってはミサイル問題が注目されているが、ミサイル攻撃を迎撃するのは主に空軍、陸軍だ。またミサイル攻撃に対するカウンターミサイル反撃は主に近海を航行する潜水艦などが行い、これは海軍が運用する。では陸戦部隊である在沖米海兵隊が、朝鮮半島有事の際にどう動くのか。

 かつて在沖米国総領事を務めたアロイシャス・オニール氏は退任後のインタビューで、在沖米海兵隊の有事対応についてこう述べている。
 「佐世保(長崎県)の強襲揚陸艦が海兵隊員を拾った上で、例えば朝鮮有事に送る」
 強襲揚陸艦は有事への対応に際して兵士、物資、戦闘機、ヘリコプター、水陸両用車などを載せ、沿岸部から内陸への侵攻を行う米海兵隊の主要任務である「強襲揚陸作戦」を支える重要な基盤だ。在沖米海兵隊と行動を共にする強襲揚陸艦「ボノム・リシャール」は佐世保を母港とする。
 この強襲揚陸艦を伴い在沖米海兵隊が朝鮮半島へ向かう場合、まず佐世保からうるま市ホワイトビーチへ30~32時間をかけて南下し、牧港補給地区から物資、キャンプ・ハンセンから兵員、普天間飛行場から航空機を艦上に載せ、再び朝鮮半島へと北上する。つまり一刻を争うはずの有事に南下と北上を繰り返す非効率な「回航問題」が生じる。
 在日米軍の動向を監視している市民団体「リムピース」の篠崎正人編集委員によると、強襲揚陸艦がホワイトビーチから朝鮮半島の韓国釜山へ向かう場合、移動時間は通常だと35~40時間かかることになる。佐世保から沖縄への南下、朝鮮半島までの北上を合計すると、現地到着までに約70時間を要する。一方、佐世保から直接釜山へ向かえば、到達時間は8~12時間で済む。米海兵隊の駐留地について沖縄の「地理的優位性」を主張する言説に対し、県などが「九州などの方が軍事的に効率的だ」と反論するゆえんだ。
 そもそも在沖米海兵隊の即応部隊である第31海兵遠征部隊(31MEU)はこの強襲揚陸艦に乗り、1年の約半分は洋上で巡回展開している。その行動範囲は西太平洋、東南アジアと定められているが、最近はオーストラリア東海岸まで出向くことも増えた。
 仮に朝鮮有事が発生すれば、その展開先から現地へ向かうことになり、拠点を沖縄と日本本土のどちらに置くべきか、という議論とは比べものにならない距離を日常的に移動している。
 「九州などの方が近い」という地理的優位性に関する議論を受け、政府は近年、沖縄は潜在的紛争地に「近い(近過ぎない)」という説明をするようになっている。2011年、防衛省が冊子「在沖米軍・海兵隊の意義および役割」を発行したことを受け、県が質問状で沖縄の「地理的優位性」の根拠を防衛省に質問し、寄せられた回答だ。国は現在行われている名護市辺野古の埋め立て承認取り消しをめぐる代執行訴訟でもこの見解を主張している。
 県は国が主張する「近いが近過ぎない」の概念について、具体的な距離などを示すよう求めてきたが、政府は「その時々で変わり得る」と実質的に回答を拒否してきた。県は「検証不能で詭弁(きべん)としか言いようがない」と述べ、地理的優位性論の根拠の薄弱さを強調する。(島袋良太)