北海道東部にあり、自衛隊最大の演習場でもある陸上自衛隊矢臼別演習場(面積約1万8600ヘクタール)。この基地は日米地位協定2条4項のbで定められた米軍が一時使用可能な自衛隊施設(2-4-b施設)に指定されている。同演習場に隣接する標茶町によると、矢臼別では米海兵隊が毎年1度、約2週間の砲撃訓練を行っている。沖縄から移転した県道104号越えの実弾演習だ。この他に日米共同訓練が行われることもあるが、ことしの実績はこちらも2週間で、日米共同訓練の実施は2012年以来、4年ぶりの出来事だ。米軍による矢臼別演習場の使用日数は、概して年に2週間程度だ。
防衛省は矢臼別演習場などの「2-4-b施設」を「在日米軍施設・区域」と表現し、分類している。この分類に沿うと、米軍による矢臼別の使用は年に2週間程度でも、統計上は「在日米軍施設」扱いとなる。さらに同演習場は全国で最大の自衛隊施設であると同時に、全国最大の「在日米軍施設」としても位置付けられている。
沖縄の基地負担をめぐり「沖縄の米軍基地面積は日本全体の74%と言われるが、実は23%だ」という主張がしばしば聞かれる。だがこの「23%」は、実は先に挙げた矢臼別のような、米軍が一時的に使用できる自衛隊基地を含んだものだ。
これらを含んだ場合、日本で最も多くの「在日米軍施設・区域」面積を抱える都道府県は、沖縄ではなく北海道となる。矢臼別の他にも米軍が一時的に利用できる上富良野中演習場、鹿追然別中演習場など大型の自衛隊基地があるからだ。
一方、沖縄に74%が集中しているのは、日米地位協定に基づき米軍が排他的管理権を有し、基地の運用に関して日本の法律が適用されず、米側に「治外法権」を認めた「米軍専用施設」のことを指す。これら米軍専用施設は日米地位協定上も、先の「2-4-b」施設とは別に、同協定2条1項aで位置付けが規定された「米軍基地」(2-1-a施設)だ。また米軍専用施設の沖縄への集中度は、防衛省も公式に「74%」という数字を採用してきた。
ではこれら米軍が一時使用できる自衛隊基地に関して、米軍による実際の使用状況はどうなっているか。
防衛省はこのうち航空施設に関する14年度の米軍による使用日数について「記録に漏れがある可能性があるが、大きくは違わない」と前置きした上で、琉球新報に回答した。するとほとんどが年に30日未満で、数日の事例も散見された。
内訳は、最多が北海道の千歳飛行場で55日。宮崎県新田原が33日、茨城県百里基地が18日、愛知県小牧基地が14日、福岡県築城が5日、那覇が4日、静岡県浜松基地が3日、鳥取県美保飛行場が2日、新潟と岐阜がそれぞれ1日だった。
一方、県は米軍専用施設の一つである米空軍嘉手納飛行場の飛行訓練の実態について、騒音測定を基にこう分析する。「年間で正確に何日間飛行したという記録はないが、平均すると、日曜でも多いところで1日20回程度は離着陸の騒音が測定されている。ほぼ年中、米軍機の飛行が行われているとは言えるだろう」
同じ「在日米軍施設・区域」と分類される施設でも、米軍専用施設と、米軍が一時利用できる自衛隊施設では、米軍の使用頻度に大きな開きがあるのが実態だ。つまり「沖縄の米軍基地は、実は日本全体の23%」という主張の基となっている数字は(1)米軍が管理権を持ち、日常的に使用する専用施設(沖縄に74%が集中)(2)使用実績にかかわらず、制度上、米軍の一時利用を認めている自衛隊基地-を混ぜ合わせて算出したものだ。
「23%」とする主張は、それらを混ぜた数値を示すことで、74%という数字に表れた「沖縄の過重な米軍基地負担」を薄めようとする狙いもあるとみられる。(島袋良太)