【島人の目】敬意の偉業


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 日本エッセイスト・クラブの「2016年春の会報」の中に感動したエッセーが目に焼き付いたので、紹介をしたい。クラブ会長の村尾清一さんの「ノーベル賞は土の中にある」から抜粋、私なりにまとめた。

 村尾さんが読売新聞の社会部の記者をしていたころのエピソードである。「日本の医学の水準は、アメリカより十年は遅れている」―。そう語ったのは日野原重明さん(聖路加国際病院名誉院長、104歳)で、当時日野原さんが90歳前のころ。東京で毎年催されている京都の旧制三高の弁論部OBの歓談の席だった。
 アメリカと同じレベルの病院を持ちたいと東京都知事に相談を持ち掛け「いくらぐらいかかるか」と問われて「3百億円」と答えた。「すぐ断られた」と、述懐した。
 村尾さんが「それでもう諦めたのですか?」と聞くと日野原さんは「いや、自分で寄付を集めるしかないと思った。すると乳がんで長く入院していた女性が、『私の小遣いを寄付します』という。10万円でもありがたいと思っていたが、後日振り込まれた小切手は2億円! それも1回だけではなく…」。
 そのとき村尾さんは寄付者の名前を聞かず、それはいつしか忘れていたが、ふとしたことからその寄付者が大村文子さん(2000年没、享年60)で、その夫が大村智さんと分かった。15年10月、ノーベル生理学・医学賞受賞者として一躍有名人となった人である。大村さんは長年にわたって日本エッセイスト・クラブの会員である。
 現在、日本エッセイスト・クラブの会員数は約320人。そうそうたるメンバーの顔触れに圧倒される。大村智さんもその1人だ。
 私がエッセイスト・クラブの会員になったのは08年、南カリフォルニアで伝記作家として名が知られる飯沼信子さんと当時クラブの理事長だった上田健一さんが推薦者となって、自分の著書が認められた。
 アメリカ大陸での正会員はこの2人のみとなっている。この名誉あるクラブの名に恥じないよう今後も努力・研鑽(けんさん)に励むつもりである。
(当銘貞夫、ロサンゼルス通信員)