『核の戦後史』 ヒバクシャ生む現状映す


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『核の戦後史』木村朗、高橋博子著 創元社・1620円

 本書は、原爆投下をめぐる経緯と被ばくの実態を、歴史的背景・政策意思決定・科学のあり方と絡めながら、分かりやすく叙述した入門書である。「核の戦後史」というタイトルは極めて挑戦的だ。それは「戦後」の起点をマンハッタン計画に求めるスタンスの斬新さのみならず、原爆投下問題と冷戦期の核実験に関する研究がそれぞれ個別に展開されてきた従来の学術状況を一新させるべく、米国の核戦略を軸とした叙述を貫くことで、日米合作の戦後核体制という本質をえぐり出そうと試みているからである。

 原爆が戦略爆撃の延長線上で生み出され、その威力や効果を調査して得られた情報を独占的に管理する核体制が、冷戦下の「軍産官学複合体」の肥大化を伴い、核実験をも正当化して日本のみならずグローバルに「ヒバクシャ」を生み出した歴史が克明に描かれている。
 第1部(木村氏担当)は、原爆投下が日本降伏を早め、百万の米兵の命を救ったとする原爆投下正当化論(原爆神話)を、「対ソ威嚇(原爆外交)説」のみならず日本人に対する人種差別や人体実験の可能性も示しながら論破する。第2部(高橋氏担当)は、戦後の核実験で残留放射能の存在を認めない米政府の言動が、3・11の原発事故後の検証を放棄したまま「国際原子力ムラ」に安住し、原発再稼働を進める日本政府の言動と連動していることを、米国機密資料を駆使して論証する。
 さらに注目したいのは、著者自身の来歴や歴史的事実の丹念な発掘を進めてきた経験談にまで筆が及んでいる点である。現代に生きる者の、主体的な知的営みこそが社会を変えていく原動力になるというメッセージと私は読み取った。原爆・原発・被ばくをめぐる戦後史は、広島・長崎・第五福竜丸・福島の歴史ではなく、我々の歴史であり、今もなおグローバルヒバクシャが生み出されている現状を認識するための鏡でもある。本書は、我々こそが社会を変えていく主体であることを喚起させてくれる一冊となろう。
(池上大祐・琉球大学准教授)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 きむら・あきら 1954年生まれ、北九州市出身。鹿児島大学教授。日本平和学会理事。平和問題ゼミナールを主宰。
 たかはし・ひろこ 1969年生まれ。明治学院大学国際平和研究所研究員(客員)。アメリカ史専攻。

核の戦後史:Q&Aで学ぶ原爆・原発・被ばくの真実 (「戦後再発見」双書4)
木村 朗 高橋 博子
創元社
売り上げランキング: 11,525