『ひめゆり学徒隊の引率教師たち』 往時の実相丁寧に


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『ひめゆり学徒隊の引率教師たち』ひめゆり平和祈念資料館企画・執筆 沖縄県女師・一高女ひめゆり平和祈念財団・1000円

 ひめゆり学徒隊を引率した教師を追憶する特別展がひめゆり平和祈念資料館で開催されている。本書は同特別展の内容を集約した図録である。時代背景を交えつつ、引率教師の経歴や人柄、言動が史料や証言に基づいて復元されている。私が目を開かされたのは、当然といえば当然なのだが、教師個々の時勢についての向き合い方が必ずしも戦時体制下としてひとくくりにはできない多元性を持つことだ。本書では教師の面影をはじめ、史料写真や証言が随所に配置され、往時の実相が丁寧に提示される。当事者との共同作業として企画を実現させた、同館関係者の努力の成果である。

 沖縄師範学校女子部と沖縄県立第一高等女学校の生徒によって編成された「ひめゆり学徒隊」は、これまで映画や小説などを通じ広く知られてきた。しかし、その引率教師の動静については、一部を例外にこれまで調査は進められていない。文書史料の欠損が特に激しい時期だけに、いまだ正確な調査を待つべき事象は多い。それでも本書は当事者の記憶に重きを置いた丹念な調査の成果であり、なにものにも代えがたい位置を占める。
 添えられた解説では、意思を自由に表現できなくなり、無難に何も言わないことが身を守る術となった時代の雰囲気が伝わってくる。そして沖縄戦下の動員と移動、壕(ごう)や戦場での体験が関係者の証言によりまざまざと浮き彫りにされる。引率教師18人は、沖縄戦終結までに13人が命を落とし、5人が生き残った。生き残ったがゆえに宿命付けられた、沖縄戦後の苦悩にまで視野は広がっている。
 巻頭にも掲げられた、「あの場合はしかたがなかったと、いくらいいわけをしてみても、それはいいわけにはならない」(仲宗根政善『ひめゆりの塔をめぐる人々の手記』)との言葉が本書の目指すものを象徴する。誰よりも、日々の教育実践に傾注している教職員をはじめ教育関係者に本書を手にしてほしい。引率教師たちと現在の教師の姿は決して断絶しているとは思われないからだ。同特別展は来年3月末まで糸満市の同資料館で開催中である。
(藤澤健一・福岡県立大学教員)
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 ひめゆり平和祈念資料館 1989年6月23日に開館。「戦後70年特別展 ひめゆり学徒隊の引率教師たち」は来年3月まで開催中で、パネル展示のほか引率教師が家族に宛てた手紙や、元学徒隊の証言ビデオなどもある。