『メディア―移民をつなぐ、移民がつなぐ』 日系人社会の歴史考察


社会
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『メディア―移民をつなぐ、移民がつなぐ』河原典史、日比嘉高編 クロスカルチャー出版・3996円

 立命館大学など関西の研究者が移民とメディアをテーマに、日本人移民地で刊行された多岐に及ぶメディアを研究対象にし、広い意味での文化論の領域における考察をまとめた興味深い一冊である。

 移民とメディアについて、まず頭に浮かぶのは移住先で刊行されてきた日系新聞である。ハワイや北米、南米など移民が渡航した国では、まず日本語新聞が発行され、初期移民たちには無くてはならない情報伝達の手段となってきた。そして、時代とともに新聞は日系人のコミュニティー形成の精神的な支柱の役割を果たしていく。

 本書は新聞の他に、移民地で発行された雑誌や音楽レコード、日記なども研究の対象に13章からなる論考で構成されている。いずれも研究論文だけに読むのに集中力が必要だが、いくつか興味深い論考もあった。

 河原典史「一九一〇年の悲劇はいかに報道されたか―カナダ・ロジャーズ峠の雪崩災害と日本人移民社会」は、ロッキー山中で線路の除雪作業をしていた32人の日本人鉄道工夫が犠牲になった事故に着目している。犠牲者はいずれも3年の契約移民として1907年にカナダに渡っている。同じ年に沖縄からも152人の契約移民が鉄道工夫として渡航している。バンクーバーの日本語新聞「大陸日報」には犠牲者名が掲載されているが、県人は含まれていない。論考は新聞の記事を手掛かりに、カナダ移民社会の知られざる歴史を浮き彫りにしていく。

 中原ゆかり「音盤は時代をつなぐ―ハワイ二世楽団のレコードと復刻CD」は戦後、ハワイで結成された日系二世のアマチュア楽団の中で、最も人気の高かったハワイ松竹楽団を取り上げている。楽団のリーダーはフランシスコ・座波、上原正治という沖縄系二世で、楽団は日本の歌謡曲をレパートリーにしていたが、ステージでは琉球舞踊や沖縄民謡が披露されることもあったという。ハワイでは沖縄というと伝統芸能というイメージが強いが、歌謡バンドまで沖縄系がリードしていたことを知ると何やらうれしい気もする。
(前原信一・元OTVディレクター)

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 かわはら・のりふみ 立命館大学文学部教授。歴史地理学、近代漁業移民史研究。

 ひび・よしたか 名古屋大学大学院文学研究科准教授。日本近現代文学・文化、移民文学。

メディア―移民をつなぐ、移民がつなぐ (クロス文化学叢書)
河原典史 日比嘉高 和泉真澄 木下 昭 松盛美紀子 佐藤 量 半沢典子 飯田耕二郎 山本剛郎 根川幸男 守屋友江 佐藤麻衣 水野真理子 小林善帆 辰巳 遼 中原ゆかり
クロスカルチャー出版
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