『尖閣研究 尖閣諸島海域の漁業に関する調査報告』 海人の語りに浮かぶ実相


社会
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『尖閣研究 尖閣諸島海域の漁業に関する調査報告』尖閣諸島文献資料編纂会編 尖閣諸島文献資料編纂会・6000円

 尖閣諸島の周辺海域は水産資源が豊富で、かつては多くの漁業者が出漁し、さまざまな漁業が営まれていた。しかし近年は中国や台湾とのトラブルなどのため、出漁する漁業者はほとんどいない状況である。

 本書は2009年度、2012年度、14年度の3回行われた尖閣諸島海域の漁業に関する調査報告集である。3冊総計1200ページにもなる大冊で、楽に通読できるものではないが、一番の注目点は多数の海人から話を聞き取り、それを記録したことである。

 本書の内容を簡略に紹介すると、09年度報告書は尖閣諸島の領土編入までの歴史的概要、古賀辰四郎の事績、周辺海域における水産試験場の漁業調査、漁業者の出漁状況などが記述されている。12年度と14年度は主に漁業者からの聞き取り調査報告である。

 聞き取りの対象となった海人は延べ100余人にのぼり、地域は沖縄本島、宮古、八重山にまたがっている。海人の漁業種類は、底魚一本釣り、底立てはえ縄、マグロはえ縄、カツオ漁業、サンゴ漁業、電灯潜り、その他、沖縄漁業のほとんどが含まれている。

 聞き取り調査に際し、漁業者は生き生きと自らの体験を語っている。これが実に面白い。話の内容は、海人になったいきさつや漁具・漁法の話、漁場における操業状況、自分なりの創意工夫、漁業資源の衰退、アホウドリの卵や肉を食べた話、遭難しかかった話、日中および日台漁業協定の問題、その他、実にさまざまなことが語られる。よくぞここまで聞き出してくれたと思う。著者は「彼ら海人の歩み、個々人の歴史の総和が、沖縄の漁業の歴史にもなり、それが尖閣諸島での漁業の正しい理解にもつながる」と記している。

 沖縄でこれほど広くかつ詳細に、漁業関係者の話が記録されたのは初めてである。この本から沖縄海人の実相が浮かび上がってくるとともに、この本には沖縄県漁業の歴史や現状を理解し、今後の課題を考える上で必須の材料がたくさん埋まっている。

 (嘉数清・元沖縄県水産試験場長)

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 尖閣諸島文献資料編纂会 尖閣諸島に関する文献資料を発掘し、全国に発信することを目的に結成された任意団体。会長は新納義馬氏。

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