prime

台湾大に我部政男氏が蔵書3万冊 その意義とは? 前故宮博物院院長・呉密察氏に聞く


台湾大に我部政男氏が蔵書3万冊 その意義とは? 前故宮博物院院長・呉密察氏に聞く    呉密察氏(本人提供)
この記事を書いた人 Avatar photo 呉俐君

 沖縄県出身で日本近現代史研究者の我部政男氏(85)は所蔵する3万冊超の日本・沖縄関係書籍を台湾大学に寄贈した。寄贈を仲介した呉密察氏(前台湾大教授)に、台湾大にとっての我部氏の蔵書の意義や今後の展望について語ってもらった。

 出会いは1980年代初期だった。40年以上の旧友であり、研究分野も似ている。我部は沖縄近現代史と日本近現代史を研究しており、私は台湾近現代史と日本近現代史を研究している。1980年代後半に東京に留学していたとき、たまたま我部も東京大学で研究していた。我部の案内で東京のさまざまなアーカイブや史料について学ぶことができた。我部は私にとって日本近現代史研究への「水先人」であり、教師でもある。

 我部が収集した書籍を大学や研究機関に寄贈すると知ったとき、すぐにこの書籍を保管するのに最適な場所は台湾大学図書館だと思った。

 沖縄と台湾は地理的・歴史的に近い関係があったため、戦前は台北帝国大学(現台湾大)で琉球・沖縄研究が行われていた。沖縄、さらには沖縄と台湾を含む「南島」研究には、著名な学者(幣原坦、中村哲、小葉田淳、須藤利一、金関丈夫、馬淵東一、国分直一など)だけでなく、多くの情報と研究成果が蓄積されている。

 1930年代以降、台北帝国大学は、大規模な歴史史料調査企画を実施し、琉球王国に関する史料を系統的に収集した。30年代に収集した琉球史の資料は思いがけず、数年後に戦争で破壊された沖縄の貴重な歴史文化資産を保存することになった。

 台北帝国大学時代に収集された所蔵品は、小葉田淳の「歴代宝案」や「冠船日記」など、琉球王国時代の資料が大半を占めている。明治時代に八重山諸島を調査した田代安定(1856~1928)が亡くなった後、彼の資料も台北帝国大学に収集された。

 近年では、金関丈夫や国分直一など、沖縄や台湾の民族学を研究する日本人学者も台湾大に資料を寄贈している。過去40年間に沖縄と台湾の学者によって行われた学術交流(赤嶺守は重要な一員)も、台湾大図書館の琉球と沖縄の収蔵品に多大な成果をもたらした。

 今回、我部の寄贈で台湾大学にとって沖縄近現代史に関する有意義な収蔵品が追加された。台湾大学図書館では、学者らが約1世紀にわたる成果の蓄積を経て、ついに琉球時代から沖縄時代にまたがる収蔵品を形成することができた。これは台湾の沖縄に対する理解を促進する上で非常に重要だ。

 今後、同館では戦後80年間の沖縄現代史の書籍が充実されることを期待したい。

 台湾大学の琉球・沖縄の蔵書が台湾における琉球・沖縄への研究に貢献するだけではなく、台湾社会の沖縄への理解も促進できる。

 (敬称略。文責・呉俐君)


 ウ・ミィチャ 1956年3月22日、台湾生まれ。台湾大学卒業後、東京大学留学。文化建設委員會(文化庁に相当)副主任委員を経て、台湾大学教授。台湾歴史博物館の初代館長、前故宮博物院院長。