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【ロングインタビュー】内田樹さんに聞く 岸田首相が訪米で満面の笑みの背景 「日米パートナーシップ」の本当の意味とは


【ロングインタビュー】内田樹さんに聞く 岸田首相が訪米で満面の笑みの背景 「日米パートナーシップ」の本当の意味とは 内田樹さん(本人提供)
この記事を書いた人 Avatar photo 南 彰

 岸田文雄首相が今月、日本の首相として9年ぶりとなった国賓待遇の訪米で「強固な同盟」を訴え、「南西シフト」を軸に自衛隊と米軍の一体化運用を強く打ち出した。この首相訪米の意味や沖縄にもたらす影響は何か。思想家の内田樹さんに聞いた。(聞き手 南彰)
 ―米国訪問中、岸田文雄首相は連日のように満面の笑みを浮かべた。
 「米連邦議会上下両院合同会議の演説で『日本の国会ではこれほどすてきな拍手を受けることはまずありません』と言ったが、当たり前だ。日本の国益よりも米国の国益を優先している統治者なのだから。いわば『朝貢に来た属国の代官』に対する宗主国民の『お褒め』の拍手だ。それを恥ずかしいと感じないことが信じられない」

会談後の共同記者会見で握手する岸田首相(左)とバイデン大統領=10日、米ホワイトハウス(共同)

 ―前回の連邦議会演説は2015年の安倍晋三氏。国会審議前に、集団的自衛権行使を可能とする安全保障関連法案の成立を約束していた。
 「連邦議会での演説は、米国の議員に向かって日本の立場を説く人のためのものではない。日本の首相に米国に対する忠誠心を誓言させるために用意された場だ」

 ―岸田首相は演説で「米国は独りではない。日本は米国と共にある」と訴え、中国を名指しし「国際社会全体の平和と安定にとって最大の戦略的な挑戦」と述べた。
 「日本には自前の安全保障戦略がない。『米国について行く』以外に政策の選択肢がないからそう言っているのだ。来年で戦後80年になるが、日本の政府も国民も、ここまで安全保障について思考停止したことは前例がないと思う」

首脳会談で握手を交わす岸田首相(左)とバイデン大統領=10日、米ホワイトハウス(共同)

 ―国民も異を唱えないのはなぜか。
 「たしかに中国の脅威はあるけれども、自国の政治家や官僚の外交交渉能力に対する信頼が極めて低い。彼らに外交を任せるよりはホワイトハウスのベスト・アンド・ブライテスト(最優秀エリート)に日本の安全保障について、日本人に代わって考えてもらった方がいいと多くの日本人が思っている。米国政府の方が日本政府よりマクロな視点から国際秩序について考えているのは本当のことだから」

 ―だが、米国の国力も相対的に低下している。対米追従の未来は。
 「このまま対米追従を続けることはリスクが高い。仮にトランプ氏が大統領に返り咲き、日米安保条約の廃棄という『ブラフ』をかけてきて、日本から搾り取れるだけのものを搾り取りにかかってきた場合、日本にはまったく対抗力がない。おそらく米国の兵器産業の大量の不良在庫を買わされ、(キューバにある米軍グアンタナモ基地のように)在日米軍基地の『米国領土化』がさらに進むと思う」

米ジョージア州で演説するトランプ前米大統領=9日(ロイター=共同)

 ―戦略欠如のしわ寄せは沖縄に押し寄せる。
 「日米の『パートナーシップ』と言っているが、米国が南西諸島の軍備を強化しているのは、本音では対中戦争の最前線に米軍を置きたくないからだと思う。最前線に米軍がいると、偶発的な軍事衝突で米中戦争が始まってしまうリスクがある。グアムとテニアンの線まで米軍を下げれば米国が戦争に巻き込まれるリスクは軽減できる。だから、かつて対ソ連を想定して北海道を自衛隊に任せたように、対中国を想定すれば、沖縄は自衛隊に任せるはずだ」
 「沖縄はこのままでは米中対立の最前線に位置することになる。沖縄を守るために日本政府がなすべきは対中関係を緊張させないで、軍事的衝突のリスクを最小化することだが、日本政府はそれを怠っていて、むしろ緊張を強めるような政策を採っている。太平洋戦争に続いて、沖縄は今度は巨大な中国軍の前に差し出されようとしている」

米海兵隊のオスプレイで奄美大島から移動し、担架でけが人(想定)を米軍基地内に搬送する自衛隊員ら=15日午後2時20分、米軍キャンプ・フォスター(ジャン松元撮影)

 ―沖縄は何を目指すべきなのか。
 「軍事基地は戦闘拠点であって、国民を守るものではない。『われわれの生命と自由と財産を守るためには基地がない方が安全だ』ということについて県民で合意形成をし、日本と世界に訴えていくことが必要だ。沖縄が東アジアの緊張を緩和する非武装中立地帯になることが、沖縄にとっても世界にとっても、最も合理的な安全保障だと思う」

 ―日本全体にとっても対中戦争に陥らないために必要だ、と。
 「琉球王国はかつて中国と日本に両属するという仕方で地政学的な『ノーマンズランド』をかたちづくっていた。その21世紀版を創り出すことが沖縄にとって最も安全で豊かな未来につながると思う」