prime

【深掘り】「バブル紳士」群がる構図浮き彫りに 空前の地価高騰に沸く沖縄 前那覇市議長汚職


【深掘り】「バブル紳士」群がる構図浮き彫りに 空前の地価高騰に沸く沖縄 前那覇市議長汚職 贈収賄事件にかかる那覇市の上下水道局関連用地周辺=2023年11月16日午後、那覇市上之屋
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

前那覇市議会議長の久高友弘被告(75)が現金5000万円を受け取ったとして、収賄罪で起訴された那覇市有地の所有権を巡る贈収賄事件。那覇地裁は10日、贈賄罪に問われた会社役員のA被告(70)に、事件関係者として初めて有罪判決を下した。事件が新たな局面を迎えるなか、A被告が判決後に取材に応じた。「全ては1本の電話から始まった」。その証言から地価高騰に沸く県都の一等地の利権に、1980年代から90年にかけて暗躍した「バブル紳士」が群がる構図が浮き彫りになった。

 発端の電話

 「5000万円を用意できないか」
 2021年2月上旬、電話口で男は、A被告にこう持ち掛けた。
 電話の主は、元総会屋のB被告(80)=贈賄罪で起訴。1980年代後半から90年代にかけて第一勧業銀行(現みずほ銀行)から460億円もの不正な利益供与を受けた大物総会屋として世情を騒がせた人物だ。

 準大手の証券会社から独立後、個人で投資顧問業を営んでいたA被告が、B被告と接点を持つようになったのは、2010年ごろ。
 「ある地方銀行の重役から紹介を受けたのがきっかけだった」という。

 B被告はこの電話で、那覇市上下水道局が管理する市有地を巡る顛末(てんまつ)を説明。市側と主張を対立させている女性に市有地の所有権を帰属させるために、久高被告側に5000万円を渡す必要があるとした。
 A被告は、自身のメモに資金の使途を「議会対策」と記している。

 「金主」の正体

 なぜ、A被告に資金提供を依頼したのか-。
 B被告は事情を明かす中で、意外な人物の名前を口にしたという。
 A被告によるとその人物は「國重惇史氏」。
 A被告は「Bさんは彼から資金を引き出す計画を立てていたようだ」と振り返る。

 國重氏は、旧住友銀行出身で、同社の取締役などを務めた後、IT大手の楽天の副社長に転じた実業家だ。

 金融業界でその名が知られる「名物バンカー」だったが、2016年、住銀時代の体験を記した著作が波紋を呼んだ。
 1980年代後半から90年代初頭にかけて、住銀と関係の深かった大阪市の総合商社「イトマン」を巡る不正融資が横行し、同社社長らが特別背任罪で有罪判決を受けた「イトマン事件」。
 國重氏は、「戦後最大の経済事件」と言われたこの事件で、住銀側で対応に当たり、その内幕を著作で明かしていた。

 ともにバブル期を象徴する経済事件に関わったB被告と國重氏。B被告は、二人が接点を持つようになった経緯もA被告に明かしていた。
 「國重氏は著作の出版後に都内で何者かに襲われ、重傷を負った。身の危険を感じた彼が頼ったのがBさんだったと本人が打ち明けていた」

 しかし、B被告がもくろんでいた國重氏を「金主」とする資金調達計画は國重氏の体調面の問題もあり断念したという。
 國重氏は、久高被告による5000万円の受領が発覚した直後の昨年4月、鬼籍に入っている。

 そして、「調達先に行き詰まり、最終的に頼ったのが私だった」とA被告は振り返る。

 「1億円を運んだことだってある」

 A被告はB被告から電話を受けた数日後には、5000万円の資金を用意し、那覇市議会議長室での贈賄事件の現場に立ち会っている。

 確証の取りにくい話で、これほど巨額のカネを求められることに違和感を覚えなかったのか。
 こんな疑問をぶつけると、A被告はこともなげにこう答えた。
 「われわれの世界では、これぐらいの現金が動くのは珍しいことではない。1億円を運んだことだってある」

 一連の事件で、久高被告とB被告を結びつける役割を果たしたのが、昨年11月に那覇地検に贈賄罪で在宅起訴され、同12月に死亡した不動産コンサルタント元代表の男性=公訴棄却=だった。
 この男性も、B被告らと同じくバブル期に暗躍したブローカーとしての顔を持っていた。

 ある捜査関係者は、「県内で起きた多くの経済事件に関わっていた。1998年1月、琉球銀行の経営不安をあおる情報が拡散したことにより、大規模な取り付け騒ぎに発展した、いわゆる『風説の流布事件』でも関与が取り沙汰された」と振り返る。事件は立件されずに迷宮入りしたが、当時、複数の人物の関与が浮上していた。

 国土交通省公表の2024年公示地価で、住宅地の上昇率が全国1位となるなど、空前の地価高騰に沸く沖縄。不動産マネーが生み出す磁場が、30年前の狂乱の時代を知る「バブル紳士」たちをも吸い寄せていた。