【島人の目】「ゲルニカ」と懲りない面々


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 スペインの国立ソフィア王妃芸術センターにある縦349センチ、横777センチの大型壁画「ゲルニカ」を見た瞬間不思議な感情が湧き、暫く魅入ってしまった。

 戦争による弱者の苦しみと魂の叫びを描き、ピカソは平和へのメッセージをこの絵に託したとのガイドさんの説明があったが、写実ではないだけに人間の愚かさを嘲笑(ちょうしょう)する絵画のように感じた。

 ちょうど1週間前、旧海軍司令部壕で観た沖縄戦当時の映像が重なった。ピカソは「スペインを苦痛と死の中に沈めてしまったファシズムに対する嫌悪をはっきり表明する」と「ゲルニカ」を1カ月で仕上げた。そこでは、世界初の都市無差別爆撃が起こり一般市民1600人が殺された。

 市街地を空襲し建物に逃れた市民を建物ごと火災で破壊する。それはナチスによる効率的な非戦闘市民を殺戮(さつりく)する実験だったそうだ。その市民を巻き添えにした蛮行は、模倣されドイツが侵攻したヨーロッパ戦、日本が仕掛けた日中戦争、そして米国が行った日本本土、沖縄への掃討作戦へと繋がっていく。

 そして第2次大戦後も懲りずに戦争を続け、米国はベトナムと10年間にわたって戦争をし村々を焼き尽くし、200万人を虐殺した。その時「ゲルニカ」は独裁政権下にあるスペインには返すべきではないとピカソの意思でニューヨーク近代美術館に所蔵されていた。

 当時良識ある米国の芸術家達がベトナムへの残忍な軍事行動を批判し、反戦の意を掲げアメリカには「ゲルニカ」を公衆の前に置く権利はないとピカソに絵画の撤去を要請したのだった。

 反戦のシンボルである「ゲルニカ」。その教訓は生かされず、今や核兵器の時代になり懲りない面々は相も変わらず戦争に関連する金儲けを企んでいる。嘆かわしいの一言に尽きる。
(鈴木多美子、米バージニア通信員)