『沖縄初の外交官 田場盛義の生涯とその時代」』 根底に沖縄人の自我


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『沖縄初の外交官 田場盛義の生涯とその時代」』又吉盛清 国吉美恵子編 同時代社・2700円

 田場盛義のことを沖縄ではどれぐらいの人が知っているだろうか。沖縄初の外交官という顔を持つ一方で、傀儡(かいらい)国・満州で中国経済を研究するなど、大きな評価を得た人だったという。

 編者の一人である又吉盛清氏は、東アジアで沖縄の役割を探究する研究者の一人である。又吉氏はこれまでに台湾・中国を踏査することで、台湾植民地・日露戦争時代に沖縄の人々がどう関わっていたのかを明らかにした。その視点の奥には沖縄が日本国の一県という位置付けだけでなく、古来から育まれた、東アジア地域で沖縄としての自立・主体性をどう生かしていくのかを探求する様子が見える。

 本書は、その視点で田場盛義が外交官・経済研究者という立場で「中国・沖縄をどのように見ていたのか」を問うている。田場は満州国外交官という強者の立場にいながら、「正義派で人情に厚く、『民族間の平和は相互の理解』からと主張している」という。そして郷里の沖縄に対しては、新聞記事「故郷を『観光』して」の15回連載記録から、田場の「沖縄へのほとばしる思い」が見られると又吉氏は述べている。

 恐らく田場は、沖縄を郷里に持つことで常に弱者の立場に置かれた沖縄人として「正義」「平等」「平和」を模索していたのではないか。また、本書はもう一人の編者である国吉美恵子氏をはじめ親戚や縁者らで田場の人となりが描き出されている。そこには英語好きで誠実な田場が現れており、より正確に田場という人物を読者に伝えたかったのだろう。なぜ今、田場盛義なのか。田場は1年志願で兵役に就いた時、「『びんた教育』に『毎日毎日たたいても立派な兵士になれない』と、軍隊教育に抗議して直訴したという」。沖縄は宮古・八重山諸島では自衛隊配備問題、本島では普天間・辺野古・高江の米軍基地問題など、オール沖縄として政府と対峙(たいじ)する状況が続く。田場の背中に宿る沖縄人のアイディンティティーは、現代にも引き継がれている。
 (川満彰・名護市教育委員会文化課市史編さん係嘱託)

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 またよし・せいきよ 県地域史協議会初代代表。浦添市立図書館館長、同美術館館長を経て、現在沖縄大学客員教授。

 くによし・みえこ 田場盛義のめい

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同時代社
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