『金城次郎とヤチムン』 名陶の論理 読解を指南


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金城次郎とヤチムン (がじゅまるブックス)

『金城次郎とヤチムン』松井健著 榕樹書林・1490円

 本書は、金城次郎の焼物が、他を圧(お)して美しいのはなぜか? そして、美しいとはどういうことか? という問いを、柳宗悦の民藝論と濱田庄司のエピソードを用いて読み解いていく。著者の松井健は、人類学の研究者として沖縄や益子、アジアの工芸と製作者たちを考察の対象にしてきた。また、民藝理論について研究書を2冊出版しており、本書は金城次郎論として優れているだけでなく、柳宗悦や民藝運動について格好の入門書となっている。

 著者は1980年代初め頃から金城次郎の工房を訪れ、今日までその後継者たちとも親しく交流を続けている。本書中では「金城次郎」と「次郎さん」の表記が混在しており、親交の深さが感じられる。2004年に金城が亡くなってから12年がたつ。実は私は金城次郎に会うことができなかった。彼を直接知らなくても、その作品を美しいと思い、その美しさを深く理解したいと願う人間は、彼をその人柄ではなく作品で語らなくてはならない。金城本人を知る著者から、本人と出会うことができなかった我々(われわれ)へ、作品の読み解き方をバトンタッチすることも本書の企図の一つであろう。

 金城の焼物が他を圧して美しいのは、その作陶の論理が近代的「知」を経験した者、つまり我々が生きる世界の論理とわずかなずれを持っていたからだ。著者は、そのずれとは何であったかを、金城の個人史や残された作品から読み解こうと試みている。そしてそのずれを生じさせる金城の論理が、民藝運動の理論にとって極めて重要であったことを指摘する。

 ところで、今後を生きる我々にとって重要なのは、金城の論理を今日の日本で再獲得することが可能か、ということだろう。少なくとも柳宗悦・濱田庄司は羨望(せんぼう)を持って見守るしかなかった。最後に、本書で紹介され考察の対象になっている久高民藝館金城次郎コレクションは、来春、那覇市立壺屋焼物博物館で公開される予定である。本書を一読後に鑑賞すれば、より理解が深まるのではないだろうか。(倉成多郎・那覇市立壺屋焼物博物館主任学芸員)

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 まつい・たけし 1949年、大阪市生まれ。神戸学院大学助教授などを経て東京大学東洋文化研究所教授。2015年より東京大学名誉教授、総合地球環境学研究所客員教授。