『この骨の群れ「死の棘」蘇生』 一瞬に懸ける芸術の境地


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『この骨の群れ「死の棘」蘇生』高嶋進著 左右社・1944円

 著者は、今や伝説の小劇場となった渋谷ジァンジァン、14年間連続公演を続け1993年に惜しまれて閉鎖した沖縄ジァンジァンの劇場主であった高嶋進。本書は、著者自身である主人公の了作と沖縄出身の芸術家との作品創造過程、現在過去の社会情勢を憂いつつ走馬灯のように去来する了作の思考や風情を描いた自伝的小説である。

 「この骨の群れ」の章では、那覇出身の沖縄戦の悲哀を歌う語り部で詩人の仲吉史子。「戦火の不死鳥」では、首里出身の戦場カメラマン石川文洋。「ジャズ弾く老子」ではジャズピアニスト屋良文雄。「あけもどろの花咲く」では、宮古島生まれの作曲家上地昇と南大東島出身のオペラ演出家粟國安彦。その中でも〈沖縄ジャズの巨人〉屋良文雄さんはすさまじい。3年の間に10時間の手術を3回と4カ月のリハビリを3回、ほとんど手術漬けリハビリ漬けの中、県外公演、海外公演をこなしていく。満身創痍(そうい)の中、緩和ケア病床にありながら、死神との対決になぞらえた最後のコンサートに挑む。

 著者自身も1932年生まれ84歳の老年であるが「老いは、過去の連続だ。深く過去に繋がる。老いていくことは生きていくことだ。一瞬一瞬が過ぎてきた。そして一瞬一瞬が続いていく。一瞬は現在だ」と述べている。著者が携わってきた舞台芸術は、脚本家、演出家、演者、作曲家、照明、制作者など多くの実践者、そして観客が創り上げるその時だけの一瞬とも言える総合芸術である。その一瞬に懸けるからこそ感動があり、芸術としての境地がある。その境地が老いてこそ、より一層鮮明に見えてくるのかもしれない。

 本書には「死の棘」のオペラ台本が収録されている。特攻隊の隊長として奄美加計呂麻島で終戦を迎えた作家島尾敏雄が上地昇にオペラ化を託し、著者が企画していた舞台が、作家が逝って30年を経た今、上地昇作曲、高嶋進制作で台本として完成した。既に上演へ向けて動いているかもしれない、著者自身の命との戦いでもあろう一瞬の舞台をはやく観(み)てみたい。
(安和朝彦・劇艶おとな団団長)

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 たかしま・すすむ 1932年、新潟県生まれ。青山学院大学文学部卒。69年渋谷ジァンジァン、77年名古屋ジァンジァン、80年沖縄ジァンジァン、83年座間味ジァンジァンを開設した。

この骨の群れ/「死の棘」蘇生
高嶋進
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