朝鮮人犠牲者、刻銘に壁 平和の礎、遺族希望も公文書不在


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権云善さんらの特設水上勤務第104中隊の配属を示す資料の「船舶軍(沖縄)留守名簿」

 戦争中に朝鮮半島から動員され、沖縄で戦死したとみられる朝鮮人2人の遺族が糸満市摩文仁の「平和の礎」に刻銘を希望しているものの、沖縄での戦死を証明する公的書類がないために申請できていないことが、5日までに分かった。遺族の手続きを支援している「沖縄恨(はん)之碑の会」(安里英子代表)は「朝鮮人犠牲者の実態を明らかにするためにも、朝鮮人の刻銘基準を弾力的に運用してほしい」と求めている。

 2人は権云善(クォンウンソン)さんと朴熙兌(パクフィテ)さん。いずれも厚生労働省が保管する在隊履歴などから第32軍直轄の特設水上勤務第104中隊の配属が分かっている。同隊の軍夫編成表から、権さんが本島配置の第3小隊、朴さんが渡嘉敷島に配置された第1小隊にそれぞれ属していたことも判明している。

 沖縄恨之碑の会の沖本富貴子さん(66)によると、権さんの息子の水清(スチョン)さん(78)は、沖縄戦の帰還者から、父親の最期について「洞窟に入った時に洞窟が爆破された」という証言を得ている。朴さんの娘の春花(チュナ)さん(72)も、帰還者から「民家からサツマイモを盗み食いした」として、父親が日本兵に首を切られたのを見たと伝え聞いた。

 しかし、2人とも「行方不明」となっており、韓国の戸籍に死亡のみ記載されている。

 沖縄恨之碑の会は9月23日、県議会に、2人の刻銘や、朝鮮人犠牲者についての県独自の調査などを求める陳情書を提出。陳情書は6日、開会中の9月定例会文教厚生委員会で審議される。沖本さんは「日本政府による調査が行われず、朝鮮人犠牲者のほとんどが『行方不明』になっている。沖縄戦の実態を後世に伝え、恒久平和を目指す平和の礎の理念のためにも、朝鮮人に対しては、沖縄県民の場合と同様に基準を弾力的にするべきだ」と話す。

 朝鮮人犠牲者は、平和祈念公園内にある韓国人慰霊塔に1万人余が祭られている。一方、平和の礎の刻銘人数は韓国と北朝鮮を合わせて447人。朝鮮人犠牲者の刻銘は、平和の礎の残された課題になっている。

英文へ→Family of Korean war victims faces difficulty in getting names inscribed on Okinawa Cornerstone of Peace Memorial