「報道やり過ぎ」「反対派も過激」 大阪府知事 差別擁護に批判 背景に基地集中容認


この記事を書いた人 金城 美智子

 米軍北部訓練場ヘリパッド建設の抗議現場で、大阪府警から派遣された機動隊員が「シナ人」「土人」などと発言した問題で、大阪府の松井一郎知事は「命令に従って沖縄のために無用な衝突が起こらないように職務を遂行している」などと機動隊員を擁護する見解を示した。ヘイトスピーチに詳しい識者は「行政が差別をしっかりと非難し、二度と繰り返さないようにするべきだ」と指摘した。

松井一郎氏

■大阪府知事が言及

 【大阪】松井一郎大阪府知事は20日午前、登庁時に報道各社の取材に応じ「表現は悪かったし、反省すべきだと思う」と述べた上で「(発言した)彼自身、命令に従って沖縄のために無用な衝突が起こらないように職務を遂行しているわけで、あまりにも個人を特定されて、大メディアも含めて徹底的にたたく。これやり過ぎでしょう」と述べ、発言した警察官への報道が個人への攻撃になっているとの見解を示した。

 「土人」と発言した警察官が警察庁や国家公安委員会によって処分されるとも述べた。松井氏の、短文投稿サイト「ツイッター」への投稿を巡っては、日本維新の会県総支部が抗議することを決めたが、松井氏は撤回しない考えを示した。

 松井氏は北部訓練場周辺の抗議行動に対して「もともと混乱地で、無用な衝突を避けるために、警察官が全国から動員されている。じゃあ、混乱を引き起こしているのはどちらなんですか」と述べた上で「反対派の皆さんもね、その反対行動、あまりにも過激なんじゃないか」と述べ、市民らの抗議行動が過激だとの見解も示した。

 松井氏は19日夜、短文投稿サイト「ツイッター」で「表現が不適切だとしても、大阪府警の警官が一生懸命命令に従い職務を遂行していたのが分かりました。出張ご苦労様」などと投稿していた。

 一方、府庁には20日午後5時までに計385件の電話やメールが寄せられ、大半が松井氏への批判だった。

安田浩一さん

■背景に基地集中容認 ジャーナリスト安田浩一さん

 本来なら率先して、機動隊員の差別発言を許されざるものだと意志表示すべき立場の大阪府知事が擁護するような物言いをした。許されることではない。ヘイトスピーチをあおるのは匿名多数の人だけではない。公人の責任が大きい。

 これは個人の警察官の問題ではない。「琉球処分」以降、日本が連綿と抱えてきた、沖縄に対する蔑視、差別がたまたま一人の警察官の口から出たということだ。差別は地理的問題だけでなく、沖縄を差別してもいいと思っている人たちがいるということだ。

 基地が沖縄に集中してもかまわない、むしろ沖縄だからいいんだと考える政治、日本社会がある。沖縄の「基地が多過ぎませんか?」という実にシンプルな問い掛けを、わがままだと思う日本社会がある。その意識が発言に結び付いた。

 国会答弁を聞いていると、今回の発言を「不適切だった」で終わらせようとしていると感じる。不適切かどうかを議論しているのではない。この発言は歴史的経緯や文脈から明確に差別だということだ。行政のやるべきことは、きちんと非難し、二度と繰り返さないようにすることだ。

 6月施行のヘイトスピーチ対策法は、国や自治体、国民にヘイトスピーチをなくす努力を求める法律で、今回のような特定の発言を罰することはできない。しかし、市民の抗議活動に公務員である警察官が差別的発言をするのは法律以前の問題だ。