『沖縄・憲法の及ばぬ島で』 記者の姿通した沖縄戦後史


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『沖縄・憲法の及ばぬ島で』川端俊一著 高文研・1728円

 戦争で多くのものが消された沖縄では、時代の生きざまを残そうと、生き残った人々への聞き取りが行われ、記憶を残してきた。この本もまた、沖縄の記憶を後世に伝える記録だ。

 著者は1994年から3年間の沖縄在住を経て、今も沖縄に通い、取材を続ける現役の朝日新聞の記者。昨年、朝日新聞紙面で担当した「新聞と9条-沖縄から」と題する連載を基にしたのが本書である。

 著者の川端は、沖縄の戦後を紙面に記録してきた新聞記者たちが、その時に何を感じながら、何を伝えようとしたのか、紙面に現れなかった記者の内面を聞き取った。テレビのリポートと違って、紙面の背後に存在する記者自身が、文字となって記録されることは少ないように思える。本書は、激しく変化する「沖縄」という取材現場と日々向き合い、読者に伝え続けた新聞記者たちの心の風景を描き出す。

 具体的には、記者たちが持ち続けた平和への強い思い、常に向き合わなければならない米軍の存在、日米政府という現実への葛藤、怒り、苦悩が記される。

 例えば71年、米軍の毒ガス移送の際に、「歴史の証言者であるべきか、その前に生活者であるべきか」と記者たちは悩み、社内で議論を闘わしていた。72年の復帰を前に揺れ続ける沖縄で、記者たちは人々の思いや苦しみ、憲法の下への復帰とは何か、どうあるべきかを書き続けていた。これら新聞記者たちの番外記録である。

 本書は過去の聞き取りだけにとどまらない。基地問題、憲法、安保と沖縄の現状に触れ、今も変わらず「憲法が及ばない」島の現実だけではない。本書が魅了するのは、沖縄を作り出してきた要因の中に、本土紙の記者たちの目や心の中に潜む「沖縄の現実と埋めがたい意識の溝」の存在があることを指摘し、沖縄と本土(ヤマト)との隔たりを深め続けるメディアへの危機感を訴えることだ。

 本書は、記録する新聞記者たちの「等身大で生身の戦後史」というべき興味深い一冊である。
 (土江真樹子・TVジャーナリスト)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 かわばた・しゅんいち 1960年、北海道生まれ。85年に朝日新聞社入社。95年に那覇支局員として米兵による「少女暴行事件」を取材、2011年、東日本大震災直後から石巻支局長を務め、13年から社会部。

沖縄・憲法の及ばぬ島で
川端 俊一
高文研
売り上げランキング: 160,509