『何も終わらない福島の5年』 真実の断片縫い合わす


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『何も終わらない福島の5年』寺島英弥著 明石書店・2376円

 本書には、飯舘村、南相馬市へと通い、人々と悲しみや希望を共にしてきた筆者の姿がある。読み進めて福島に暮らす人々の想いの瞬間と何度も出会うことができた。それは震災の時々だけがこの本にとらえられているのではなく、震災から5年の時間の断片が縫い合わされている何かをありありと描こうとしているからであると感じた。

 印象深く思ったものの一つは、狼(おおかみ)たちの絵の復元のエピソードである。歴史ある飯舘村の山津見(やまつみ)神社は、全村避難となって後に火災となってしまう。消失された社殿には狼の天井絵があったが、それらは全て燃えてしまった。事実を知った人々は「我々は神にも見放されてしまったのか」と力なく語ったと、かつて知人に聞いたことがある。

 やがて地元の方々と東京芸大の教授と学生らのプロジェクトが組織された。残された写真を元に多くの絵が新しく描かれていく。「失われたものは二度と戻らない」という気持ちから立ち直り、絵の向こうにある故郷の風景と誇りとを取り戻そうとする力が見えた。福島県立美術館にてこれらは展示された。多くの来館者の心を動かした。

 いま、あらためて問う。何を語り合えば良いのか。この本に教えられるだろう。震災を簡潔なニュースの連続で終わらせるのではなく、その先の時間の縦と横の糸を〈縫い合わせる〉ようにして丹念に伝えていくことなのだと。その縫い目を見失わずに一つ一つの現実と新鮮に向き合う。震災報道の後になお続いている悲しみと絶望と決意と希望の心の連続こそが、私たちのいまであり、生きていることなのだと。

 農業、風評、帰還問題、町や村の存続…、巷(ちまた)の「復興」という大きな二文字で括(くく)ってしまおうとするには、あまりにも厳しくて変わらない雲間の現実が福島にはある。その地に足をつけて晴れ間をそれでも見上げようとする眼差(まなざ)しがある。真実が絡み合う震災後の現在。5年の歳月が〈縫い合わされている〉一冊の織物の網目に、一筋の光る絹糸のようなものを数多く探し出して、しかと分かち合っていきたい。(和合亮一・詩人)

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 てらしま・ひでや 1957年、福島県相馬市生まれ。河北新報社編集局編集委員。論説委員、編集局次長兼生活文化部長を経て2010年から現職。

東日本大震災 何も終わらない福島の5年 飯舘・南相馬から
寺島 英弥
明石書店 (2016-08-25)
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