『基地、平和、沖縄―元戦場カメラマンの視点』 故郷の実情へ強い怒り


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『基地、平和、沖縄 -元戦場カメラマンの視点』石川文洋著 新日本出版社・2484円

 戦場では何が起こっているのか。その戦場はその後、歳月を経て、どのような傷跡を人と大地にも刻んでいるのか。石川文洋氏の新著「基地、平和、沖縄」は、そのことが学べる良書である。月刊「まなぶ」(労働大学)に連載された「元戦場カメラマンの視点」を底本にまとめられているので、第1章から第6章の各節の文章に引き込まれながら、いい頃合いに息が継げる文字数でまとめられている。

 記載されている内容は、「戦争」につながるものへの強い怒りを提示する重いテーマであるが、ページを開くと、一つ一つの事柄に対する疑問の扉が開かれるヒントが満載である。やはり、ベトナム戦争の取材を原点に持つ元戦場カメラマンの著者でなければ論述できない視点がいたるところに見られる。ファインダーの先にある事実を写し取っているプロカメラマンとして、「他の人より迫力ある写真を撮りたいという競争心より、現場で起こっている事実を知りたい、確かめたい」と、同書で述べているが、まさしくシャッターチャンスを待ち、見つめているのは、人間の心を持つ目である。そのことは、「戦争を防ぐためには、戦争の実態を知り戦争の悲劇を想像することだ」と記していることからも伺える。また、「どうして大人は戦争するの」と、投げかけられる子供たちの疑問に、私たちは答える義務がある。

 同書のほとんどのページが沖縄問題で埋められているが、それは、著者の故郷沖縄を想う心根の強さが、今、沖縄で起こっていることへの怒りが反映されているからであろう。石川氏と私は、同じ長野県で暮らしていることもあって講演会などで同席する機会が多いが、石川氏は、「在日沖縄人の石川」と、自己紹介をなさる。私は少しだけ腰を引き「在日ウチナーンチュの伊波」の言葉を用いる。同じ意味でも日本語の「沖縄人」と、自己のアイデンティティーを明快に表現する覚悟の強さに、いつも圧倒されながら、2人それぞれが「沖縄」を語り続けている。(伊波敏男・信州沖縄塾塾長)

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 いしかわ・ぶんよう 1938年、那覇市生まれ。4歳で本土に移り住み、現在は長野県諏訪市在住。69年から84年まで朝日新聞社カメラマン、84年からフリー。

基地、平和、沖縄―元戦場カメラマンの視点
石川 文洋
新日本出版社
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