『貧困児童』 解決策の原点は沖縄に


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『貧困児童』加藤彰彦著 創英社/三省堂書店・1296円

 子どもの貧困が日本中で注目されている。沖縄県でも全国に先駆けて、どれぐらいの子どもが経済的に困窮した状態にあるかを調査し10人に3人という厳しい数値を浮かび上がらせた。また、必要な食料を買えない経験があった保護者の割合などが全国に比べ高いことも示した。本書の著者は、そうした一連の調査の研究代表者でもある。

 著書は、貧困と貧乏の違いに触れながら、生活に困窮している人が増加した今の社会の厳しさを次のように表現する。「苦しい、辛い、助けてといえない社会に、いつの間にか私たちは生きている」。沖縄も含め、かつて全国各地には助け合いがありお互いさまといえる状況があった。ところが、椅子取りゲームのような競争の激化が非正規労働の増加などを生み、貧困は孤立と密接に結びつき自己責任化した。

 問題の解決に向けて社会のつながりの復活が不可欠なのだと訴えているように読み取れる。それは、「ドヤ街」や沖縄に住み込みさまざまなネットワークを深めてきた著者の信念に基づくものだろう。また、子どもや家族を地域まるごと支えてきたソーシャルワーカーとしてたどりついた結論なのだろう。

 だからこそ、著者は沖縄に可能性を見いだす。そうした厳しさ・深刻さを抱えながらも、行政、市民、企業、民間団体が協働して子どもの貧困解決に向けて全県民の力で動く。また、市民主導の研究会から出発し先述のような調査を行い、その結果を施策に反映させ、全国で初めて削減目標さえ打ち立てる(他の先進国ではごく当たり前の削減目標の設定を真っ向から否定する現政権とは大違いである)。

 著者が「沖縄モデル」と名づけるこうした動きができたのも、沖縄が70数年前の戦争で荒廃しながら「いちゃりば、ちょーでー」という生き方、ユイマールという世界に誇れる社会連帯の思想を育んできたからである。困っている人がいたらみんなで助け合うというごく当たり前の解決方法の原点は沖縄にあり、それを全国に広げる可能性に著者は希望を見ているのだろう。
(山野良一・名寄市立大学教授)

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 かとう・あきひこ 1941年、東京生まれ。横浜国立大卒。小学校教諭、横浜市職員などを経て、横浜市立大学教授、沖縄大学教授、同学長を務めた。沖縄大学名誉教授。

貧困児童―子どもの貧困からの脱出
加藤彰彦
創英社/三省堂書店
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