『サンゴ礁に生きる海人』 人々の共生の知恵


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サンゴ礁に生きる海人―琉球の海の生態民族学 (琉球弧叢書)

 

『サンゴ礁に生きる海人』秋道智彌著 榕樹書林・6912円

 本書を読んで、そういえば、歴史史料に書かれる魚がどんなものか分からずに済ましてきた。民俗学では、気が付けば干された状態になった魚が神にささげられている。そこには、名前、生態など自然の状態、漁獲や加工の方法、食べ方や味など、その魚を知り尽くした人々の営みが、まずなければならない。

 そして「漁業で生業(なりわい)をたてる」というと、魚を売ることを思い浮かべる。糸満漁夫と魚を売る妻が独特な文化として注目されるが、まずは自給自足的に食べることが、生業のもともとの意味に近いだろう。かつての琉球の村の海はそういう海であり、生活の基盤の一つであった。

 著者・秋道智彌氏がいう「琉球の海の生態民族学」とは、そのようなことを考える学問であり、人々の海とともに生きる知恵を伝えるものなのだ。本書で特に興味深かった点を挙げると、第2章の漁場名の検討で、魚についての知識と漁の実態が、陸上からは分からない海中で明らかにされている。第4章では、八重山での「専用漁業漁場図」にみる近代の「海のなわばり」とジャコトゥエーでの「鰹餌取責任者協定書」によるサンゴの占有、また糸満のアンブシ漁での「なわばりの海」の決定と利用が述べられている。第7章で取り上げているサンゴの白化問題は、評者が関心をよせる石西礁湖について述べられている。本紙でも、最近「石西礁湖 過半死ぬ サンゴ白化97%」というショッキングな報道があった(11月10日付)。

 これまでは「サンゴ礁の海は悪くなることがあっても、よくなることはなかった」といわれる(10ページ)。しかし、解決への道は、本書を丹念に読めば見つかるはずだ。あるいは、一読の後、百科事典のように本書を利用するという手もある。なお、最初に述べたように、文字は実態を示さない場合がある。海のことで評者と関連している点では、「海馬」は漢和辞典などではタツノオトシゴなどさまざまにいわれるが、琉球の歴史史料ではジュゴンのこと。(得能壽美・法政大学大学院講師)

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 あきみち・ともや 1946年京都市生まれ。京都大理学部卒、東京大大学院博士課程修得。総合地球環境学研究所名誉教授、山梨県立富士山世界遺産センター所長。