【島人の目】“商人”大統領は是か非か


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 トランプ米新大統領の就任式での演説は、選挙キャンペーン中と同じく「人々の分断を助長する可能性が高い」残念な内容だった。正直に言えば、彼は就任式で変貌して、世界から尊敬される米大統領の品格の片鱗(へんりん)を見せるのではないかとひそかに期待した。しかしその淡い期待は無駄だった。

 彼は演説の中で「アメリカ・ファースト(第一)」と叫び、米国を米国民のために取り戻す、と宣言した。それは彼が率いる米国が、事業家である大統領個人と同様にひたすら自国の利益のみを追求し、かつ「他国には厳しい金持ち国家を目指す」と言い放ったも同然だからだ。

 トランプ氏は就任前からツイッターで個別の企業を名指しで脅した。結果、いくつかの企業が彼の思惑通りの「アメリカ・ファースト」に従い、国内に雇用を生み出す投資を行うと発表した。それは米大統領の巨大権力を利用した恫喝(どうかつ)だ。一時的には好結果をもたらすように見える。だが、長い目で見れば破滅に向かうはずだ。彼のその手法は恐怖政治にほかならないからだ。

 米国が自国の経済効率ばかりを追い求め、自由や平等、幸福の追求を掲げた彼らの「建国の理想」を忘れ果てるなら、米国はもはや米国ではない。これまでの米国は、経済一辺倒ではなく、理想や良心や品格も希求した。それがなくなればただの成金国家になってしまう。対立を好む、尊大で危険な大国にすぎなくなってしまう。換言すれば、トランプ大統領が目指す米国は尊敬するに値しない大国になる恐れがある。

 企業経営の手法で国家を運営しようとするのは疑問だ。彼には反面教師とするべき者がいる。ここイタリアのベルルスコーニ元首相だ。事業家の元首相は、ビジネスと同じやり方で国家のかじ取りをしようとしたが、私利私欲に走って結局破綻した。トランプ大統領はその轍を踏まないようにすべきだ。
(仲宗根雅則 イタリア在、TVディレクター)