『琉球独立への本標』 「琉球の怒り」にじむ書評集


社会
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『琉球独立への本標(ほんしるべ)』宮平真弥著 一葉社・1944円

 琉球(沖縄)理解に欠かせない111冊が一堂に会した稀有(けう)な一冊が世に問われた。しかも全編が書評集になっている。

 書名にある「本標」とは「道標」と「読書案内」の造語である。「ガイドブック」では月並みだとの出版社の判断から名付けられた。沖縄出身の筆者の膨大な読書経験の中から、これだけは外せないヤマト(本土)の人に読んでほしい書籍が凝縮されているからだ。

 それだけに琉球処分以来の沖縄差別の歴史、辺野古や高江で沖縄住民の意思を無視して強行されている米軍新基地建設、迷惑施設である米軍基地の集中、負担を増大させながら「沖縄の負担軽減」を白々しく繰り返す日本政府への本土の無関心に対する筆者の行き場のない怒りが、抑制のきいた中にもひしひしと伝わってくる。

 ここでは書名になっているように、琉球民族独立総合研究学会などが問題提起している琉球独立論も争点の一つとして取り上げられている。本土では一笑に付され、沖縄でも居酒屋談義との批判にさらされた琉球独立の狙いと可能性が歴史と現況を背景にした議論の俎上(そじょう)にあげられる。この議論が琉球伝統の「非武の文化」や「万国津梁の精神」から生まれていることを考えたとき、私には決して他人事には思えなかった。ヤマトのそれとは対立する概念だからだ。

 法学者である筆者は、「辺野古違法確認訴訟」高裁判決の問題点を多角的に検討する。ここでは立憲主義が現実に対応できるのか、という問題だけ指摘しておきたい。筆者は、日本国憲法より上位に置かれた日米地位協定の運用実態には触れず、存在しない中国脅威論や北朝鮮脅威論に安易にくみする護憲派の矛盾撞着(どうちゃく)ぶりを指摘する。この試金石を回避しては、沖縄だけでなく、本土にも平和と独立が訪れないことを本書は教えてくれる。

 (森広泰平・アジア記者クラブ事務局長)

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 みやひら・しんや 1967年、那覇市生まれ。首里高、法政大法学部卒。東京都立大(現首都大学東京)大学院を経て2001年より流通経済大学法学部専任教員。

琉球独立への本標(ほんしるべ): この111冊に見る日本の非道
宮平 真弥
一葉社
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