芸能・文化

『加計呂麻島 昭和37年/1962』 島の精神世界真摯に見つめ

『加計呂麻島 昭和37年/1962』ヨーゼフ・クライナー撮影瀬戸内町教育委員会編 南方新社・3780円

 さまざまな人の表情、仕事、祈りなど。奄美の原郷・写真集「加計呂麻島 昭和37年/1962」は島の日常、暮らしを写した貴重な写真集である。奄美大島の瀬戸内町が去年、町政施行60年の記念事業として企画、同町教育委員会の編集によって刊行された。A4変型の199ページ。カラー、モノクローム合わせて222カットが収録されている。

 撮影者のヨーゼフ・クライナーさんはオーストリア出身の民俗学者、77歳。文部省の交換留学生として東京大学に在学中の62年3月、民俗学の先駆者、柳田国男の勧めで22歳の時初めて奄美大島を訪れた。そして加計呂麻島を中心に島民の日常、祭事習俗、ノロ祭りなどの調査研究を行ない、翌年の7月にも来島している。撮影地は加計呂麻島の西部を中心に古仁屋や与路島を含めて16の集落に及んでいる。今では見られないかやぶき屋根の集落や農作業、人の往来など。子供から村人の日常が生き生きと写されている。そして研究テーマのノロ祭祀の行事やトネヤ、アシャゲなど聖地、祀りの道具なども丹念に記録されている。撮影から55年もたつのに驚くのは今もほとんどカラー、モノクロともに変退色も少なく、画質、グラデーションがしっかりと保存管理がされていることである。

 そして、人や風物など被写体への視点、洞察、島人への心遣いが画面から優しく伝わってくる。それはクライナーさんの人柄、人格がもたらすものであろう。懸命に働く人たち、にこやかにほほ笑み元気に遊ぶ子供たち、その表情は異邦人もカメラもなく、すべて画面は同化した島の空間を共有する一つの世界に溶け込んでいる。思えばそう遠くない過去、現在でも人の絆は心の触れ合いが原点。それが日常濃密にみられた時代から、次第に薄れゆく現代の場面に遭遇した時など、言いえぬ寂しさを覚えることがある。

 写真集「加計呂麻島」に記録された情景はまさしく奄美の原郷。今日ややともすれば忘れがちな島の暮らしの在りよう。祈りと感謝、思いやりの心。大切な島の精神世界を思い起こさせる機縁にもなりそうな写真集である。

(越間誠・写真家)

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 ヨーゼフ・クライナー 1940年、オーストリア生まれ。ボン大学名誉教授、東京国立博物館客員研究員、法政大学国際日本学研究所客員所員。著書に「世界の沖縄学-沖縄研究50年の歩み」(芙蓉書房出版)など。

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