『沖縄は未来をどう生きるか』 狡猾な沖縄政策を批判


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『沖縄は未来をどう生きるか』大田昌秀、佐藤優著 岩波書店・1836円

 本書は、大田昌秀氏と佐藤優氏の対談をまとめたものである。第一部では、沖縄問題の背景を歴史、文化、アイデンティティーの視点から考察しており、伊波普猶と普成兄弟、中原善忠、ジョージ・H・カーなどの識者やハワイ移民の嘉数箸次などによる沖縄人論が紹介されている。さらに、沖縄独立論の系譜、沖縄戦の真相、本土復帰の是非などが、豊富な文献や日米の公文書を基に検証されている。

 第二部は、米軍基地問題をテーマとしており、現在の沖縄の異常な基地負担が、沖縄を捨て石にした太平洋戦争での作戦や、沖縄をアメリカの施政権下においた政策の延長線上にあることを、「構造的差別」をキーワードとして分析している。沖縄の民意を無視し強行されている辺野古や高江での米軍基地建設には、安全保障という国益を沖縄県民の過重な基地負担という犠牲に優先させる、日米両政府のアメとムチを併用した狡猾(こうかつ)な沖縄政策がはっきりと見て取れることを指摘し批判している。

 全体的に、長年の研究実績と元県知事としての政治・行政経験に基づく大田氏と元外務官僚として官僚機構の内部事情に精通している佐藤氏の展開する議論は、強い説得力を有している。しかし、日本政府が在沖米軍基地建設の根拠としている「抑止論」については、両氏の懐疑的意見とは異なり、評者は、米軍のプレゼンスによる安全保障面での抑止効果は少なくないと考える。問題は、「抑止論」が沖縄への一方的な基地押し付けの理屈として、中央政府官僚に利用されていることである。米軍の抑止効果が重要であればなおさら、基地負担は日本全国で「平等」に負うべきものであろう。

 安全で快適な日常生活を求める県民の成熟した市民意識の高まりに、尖閣諸島周辺や朝鮮半島での軍事的緊張が加わり、沖縄の米軍基地問題をめぐる力学は複雑化し、保革対立の枠組みも溶解している。もはや「リベラル主義と現実主義」のどちらか一方のみの視座では、本書がテーマとする沖縄問題の本質は見極められないであろう。

 (高嶺司・名桜大学大学院教授、国際政治学PhD)

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 おおた・まさひで 1925年久米島生まれ。沖縄国際平和研究所理事長。90~98年、沖縄県知事。

 さとう・まさる 1960年東京都生まれ。作家、元外務省主任分析官。

沖縄は未来をどう生きるか
大田 昌秀 佐藤 優
岩波書店
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