『私の沖縄現代史』 共に時代を生きた人々


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『私の沖縄現代史』新崎盛暉著 岩波現代文庫・1058円

 「人民帽」をかぶり、藍色のジャンパーを着て、足元はゴムぞうりを履き、そんないでたちの新崎氏をよく見かけた。かっこいいと思った。70年後半から80年はじめのころだろうか。

 一方で、強面で人を寄せ付けない風もある。沖縄戦後史に関わる多くの著書を出し、市民運動の現場から発言もし、絵に描いたような堅物である。と思いきや、本書は、肩の力を抜き、時にはユーモラスに生い立ちや、家族、それを囲む人々、友人などを語りながら、同時代の政治、自らの活動が描かれている。

 氏は沖縄に出自を持つ両親のもと東京に生まれた。戦後母方の祖父母も近くに移住してきており、祖父の三味線で幼い新崎少年はよく踊ったとも言い、ウチナーグチもほぼ理解できたという。少年時代の記述では、随所で笑ってしまった。

 同書は自伝的な要素が強い。では単にそうかというと、周辺の人々を描きながら、同時代の政治や社会を描いている。登場する人物は多様で、すでに故人も多いが、現役で活躍している人もいる。読みながら「この人も知っている」というのが、同書の面白さであり、生きた現代史という感がある。

 例えば、東京の「沖縄資料センター」の活動の中で、沖縄出身者の学生たちとの作業で出した『ドキュメント沖縄闘争』(1969年)。その中には比屋根照夫、岸本建男、渡名喜明、我部政男などがいる。渡名喜は全国沖縄闘争学生委員会の委員長などをしていた。

 はじめ、ほほ笑ましい思いで読み進めていた。だが、時代は沖縄返還闘争へと向けて、壮烈な闘いへと突き進んでいく。2・4ゼネストとその挫折など。文字を追う私の背中に戦慄(せんりつ)が走った。だが、語りは沖縄大学に赴任するまで。その後のCTS阻止闘争などの続きが読みたい。
(安里英子・ライター)

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 あらさき・もりてる 1936年東京生まれ。東京大学社会学科卒業後、74年に沖縄大学に赴任。現在は同大名誉教授。

私の沖縄現代史――米軍支配時代を日本で生きて (岩波現代文庫)
新崎 盛暉
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