『沖縄のまじない』 民俗史的視点から解明


社会
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『沖縄のまじない』山里純一著 ボーダーインク・1836円

 「まじない」というと、著者が後書きで触れているようにうさんくさいイメージがつきまとう。しかし、まじないは現代でも人々の生活の中のそこかしこに深く根づき、非合理的・非科学的なものとして単純に退けられないまま、信仰の一部を形成している。

 人々は精霊や神などの超自然的な存在を畏敬し、さまざまな信仰の体系を作り上げるとともに、人生の諸段階において、生命や健康、幸福を侵害し災厄をもたらす魔物・悪霊などに対しては、不幸や災厄を回避するためさまざまな対抗手段を考えてきた。それがまじないである。

 まじないや呪符(じゅふ)は民俗学や文化人類学における主要な研究対象といえる。沖縄の民俗研究において民俗事例は収集されてきたが、研究実績は思いの外少ない。著者の専門はご存じのように古代史である。文献史学が本来の研究領域でありながら、現在の民俗事象にも深く関心を抱き、その実態把握に努めるフィールドワーカーでもある。

 文献資料を渉猟し、家々の古文書資料や博物館の収蔵資料などを精力的に調査するとともに、民話や伝承の裏付け採集を行いつつ、呪符やまじないを民俗史的な視点から解き明かしている点が高く評価できる。これまで多くの研究書を刊行し、その成果が本書にもいかんなく発揮されている。

 全体の構成は「呪文」「沖縄のムンヌキムン」「暮らしとまじない」「誕生と産育のまじない」「死・葬・墓のまじない」「呪符をめぐる文化交流」の6つの章で、付章としてエッセーを添えている。

 研究の端緒を開かれたフーフダ(符札)の様相をはじめ、呪文、「風のまじない」、「ものもらい」やそれに伴うまじない、「ウティンジカビ」と「ウモウシカビ」の変遷、墓中符などなど、日本や海外の関連事例も紹介するなど興味深い多彩な内容が満載である。

 本書を通して日常生活の中で身近にある、お札のたぐいや何気ないまじないの言葉の由来や意味・変遷など、理解が深まる一冊であり、ぜひお薦めしたい。

 (萩尾俊章・沖縄民俗学会会員)

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 やまざと・じゅんいち 1951年石垣市生まれ。琉球大学教授。主な書著に「八重山・石垣島(大浜・宮良・白保)の伝説・昔話」「古代の琉球孤と東アジア」。

沖縄のまじない―暮らしの中の魔除け、呪文、呪符の民俗史
山里純一
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